Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

感情の波がほしい 音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』7/13 S 感想

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プロダクションについて

「音楽劇」と銘打ちつつも、登場人物が心情を歌い上げるようなミュージカル的楽曲が作品のほとんどを占めていたので「日本オリジナルミュージカル」のタグをつけてみました。

作: 大島里美

音楽: 笠松泰洋

演出: 青木豪

笠松さんと青木さんは、昆ちゃんや伊礼さんが出演していた音楽劇『星の王子さま』や劇団四季の『恋に落ちたシェイクスピア』でタッグを組んでいたみたいです。青木さんは『バケモノの子』の演出も手がけているそうな。大島さんはテレビドラマや映画の脚本をメインで手がけている方のようです。

 

当日のキャスト

ダ・ポンテ: 海宝直人

モーツァルト: 平間壮一

サリエリ: 相葉裕樹

フェラレーゼ: 井上小百合

ナンシー: 田村芽実

コンスタンツェ: 青野紗穂

フランツヨーゼフ2世: 八十田勇一

平間くんが生で見るのは初めてだったのと、井上さんと青野さんは完全な初めましてでした。

 

作品の感想

作品全体を通して「感情の波」みたいなものがあまり起きなくて、さらーっと流れていったような感じでした。提示された要素自体は面白い部分も多かったんですけど。。。

特に面白いなと思ったのは、ダ・ポンテとモーツァルトの別れのシーンです。「一生に一度作れるか作れないかの傑作」であった『ドン・ジョヴァンニ』がウィーンでの上演を拒否され、宮廷から追い出された2人。ダ・ポンテが「自分たちをコケにした奴らを見返してやる」「這い上がってやる」と再び権威を取り戻そうとするのに対して、モーツァルトはシカネーダーと組んで『魔笛』の制作を始める。市民が楽しめるドイツ語のオペラを作ろうと試み、また「自分が拍手すればいい」と作りたいものを作る姿勢をとって新しい時代に進んでいくモーツァルトと、旧時代の権威にしがみつくダ・ポンテの対比が面白かったです。モーツァルトの考えを全く受け入れないダ・ポンテの主張を否定せずに「君らしいね」と笑顔で返し、ダ・ポンテがドアから出て行った瞬間に咳き込むモーツァルトの姿も印象的でした。

この物語のフィナーレは、おじいさんになったダ・ポンテが回想録には書かなかったモーツァルトとの最後の共作『コジ・ファン・トゥッテ』の制作風景、そしてモーツァルトとダ・ポンテが分かり合えた日々を思い出して一緒に歌う展開なのだけれど、先に書いた対比が面白かった分、このフィナーレがいまいち魅力的に思えなくてうーんとなってしまった感じがありました。

ダ・ポンテの出自を巡る問題も劇中で上手く機能していないように感じました。ダ・ポンテがユダヤ人でゲットー生まれであるということが宮廷に知られるっていう展開があるものの物語との絡みは弱かったし、サリエリ先生がダ・ポンテを見限る場面でも本人が生まれを気にしているようなそぶりをみせたりもあったけれどそこでも深堀されずっていう感じで。学生時代や家庭での苦しみは描かれたものの、大人になったときにその出自がどう彼のキャリアに影響したのかっていう部分をもっと丁寧に描いてほしかったなと思いました。

サリエリ先生のキャラクターについてもあまりよくわからなかったという印象です。ダ・ポンテを見限る場面で「自分の名前が残らなかったとしても、未来のためになるならば退くことはやぶさかではない」みたいな重要なことを言うけれど、その考えに至るまでのいきさつみたいなものが全く描かれていないので唐突に感じました。考え自体は面白いと思ったので、もっと脚本の中でサリエリ先生というキャラクターを立たせてほしかったです。

フェラレーゼについても似たような感じです。男を手玉に取って成り上がっていった女が、実はダ・ポンテの音楽の源泉である乞食の少女であったという展開は面白いのにそれがあんまりいきていなくてもどかしかったです。実力はあるのに出自のせいで役を掴めないだとか、なんらかの理由があればいいものの、ただ「好きだから」という理由で実力のないフェラレーゼを歌手として捻じ込むダ・ポンテに不信感が募りますし、そんな2人のロマンスには全く心が動かなくて。。。

恋人を劇場に捻じ込むというクズムーブをかますダ・ポンテに呆れたモーツァルトが「耳でも腐ったのか?」って言い放って2人が決裂するわけですけど、コンスタンツェに説得されて仲直りに行くモーツァルトの思考も割と謎で。そもそもコンスの説得が「彼の書くものはつまらなくなったの?」「じゃあ仲直りしなくちゃね?」って感じなので、説得力のない説得に納得して仲直りに行くモーツァルトにも?ってなってしまったというところです。

総じて、登場人物の思考の流れがもやっとしているからなかなか共感できないし、登場人物が魅力的に見えてこないっていう感じで、そうなってくると「感情の波」は生まれてこないなという。。。

 

あとは細々したところだと、モーツァルトの葬式の場面のステンドグラスを模した照明が綺麗だったなとか、セットがシンプルな分には「音楽劇」だもんなとなるものの光る音符のセットは安っぽくなるからいらないかもなとか、一幕終わりの演出が謎で割と客席が困惑したまま終わっていったなとか。

それから、フランス革命の知らせがウィーンに届くシーンがとても『モーツァルト!』の演出と似ていて久しぶりに『モーツァルト!』が見たくなりましたね。あとウィーンの街紹介ソングで「誰も私のことを知らないこの街で夢を掴もう」と高らかに歌う市民を見て「なんだこの既視感、あ、東ラブだ。ブリリアだ」ってなりました。詳しくはこの記事の下に貼ってある『東京ラブストーリー』の感想を参照。

 

キャスト中心の感想

色々書いちゃいましたがキャスト陣は良かったです。というかだいぶ演者頼みな作品でした。

まず、海宝さんは歌がうますぎる。もはや面白いくらいに歌が上手い。赤い照明の中で高音を歌い上げている姿には思わず「そのままEl Tango De Roxanneを歌ってくれ!」と思ってしまったし、十字架をバックに背負うと「今すぐJCSを!」って思ってしまいました。ごめん。

お芝居の面も好きでした。ヨタヨタ歩いて、若い女の子たちには煙たがられている爺ポンテさんがかわいかったです。コミカルな表現のバランスとか間もやっぱり上手い。冒頭で女を誑かしまくる姿には、先月聴いていた『ラングドックの薔薇』のペイレを重ねてにこにこしてしまいました。酔っ払って酒場の奥さんにダル絡みしてるのも良かったです。強制膝枕に笑いました。私の好きな役者さん、泥酔芝居しがち。

 

あと、芽実ちゃん演じるオルソラとのシーンが良かったです。あの青くさい「一緒に逃げよう」とキスからオルソラの拒絶までの流れには情緒がやられました。

芽実ちゃんも久しぶりに見たらやっぱり上手くて「好きだな〜」と思いました。よく通る声なのに歌声は役側に合わせて柔らかく丸くしてあってそこがとても好き。脚本もかなり芽実ちゃん演じるナンシーとオルソラを頼みにしすきじゃ?って感じだったんですけど、しっかり重要な2つの役で作品を引き締めていて流石でした。日本で『SIX』やる時はブーリンを頼むね(各所よろしく)。

 

平間くんは私の中でロミジュリのマキュの印象なのだけれど、そのときよりも、そして今作の歌唱披露からもさらに歌がうまくなっていて成長!って感じでした(誰目線ですまん)。音域広がってますよね〜素晴らしい。平間くんの作り上げた率直でカラッとしている今回のモーツァルト像、好きでした。

ばっちも「腹から声!」って感じで上手かったですし、青野さんと井上さんもしっかり歌えていて良かったです👍

 

そんなこんなで、題材とキャストは概ねいい感じだったので、物語としての精度みたいなものがもっと上がっていればな〜と思う作品でした。

あとあれだ、ビジュアルが何故白塗りだったのかの謎は解けず仕舞いでしたね😂

 

半年ぶりくらいのブリリア、ここ2回は連続で2階席に座っていて音響的にも視界的にもあまり打撃を受けていない私です。むしろオーブ3階の手すりの方が私を苦しめる頻度高いですね😂

 

【海宝さん関連】


【音楽劇関連】

音楽劇って英語圏にはないジャンルなのかなってずっと考えてます。対訳が出てこない。音楽系伝記映画とかも「Musical Movie」って呼ばれているから細分化されていないのかもしれないな。どなたか詳しい方がいたらコメント欄かTwitterで教えてください。

 

【前回のブリリア観劇】