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テイモアとハドソンのデザインに溺れる『ライオンキング』4/20 M 感想

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3年前、コロナ禍のゴールデンウィークに見て以来のライオンキングでした🦁

作品・公演概要

The Lion King
原作: The Lion King(1994年公開の映画『ライオンキング』)
音楽: Elton Johnエルトン・ジョン
詞: Tim Riceティム・ライス
作詞・作曲補: Lebo M(レボ・M)、Mark Mancina(マーク・マンチナ)、Jay Rifkin(ジェイ・リフキン)、Julie Taymorジュリー・テイモア、Hans Zimmerハンス・ジマー
脚本: Roger Allers(ロジャー・アラーズ)、Irene Mecci(アイリーン・メッキ)
初演: 1997年 ミネアポリス
         1997年 ブロードウェイ
         1998年 東京
         1999年 ウエストエンド

The Lion King: Original Broadway Cast Recording

The Lion King: Original Broadway Cast Recording

  • Various Artists
  • ミュージカル
  • ¥1731

 

ミュージカル『ライオンキング』
劇場: 有明四季劇場
オリジナル演出: Julie Taymor
初演日本版演出・オリジナル企画: 浅利慶太
日本語台本・訳詞: 浅利慶太
日本語台本協力: 藤田みどり
レジデント・ディレクター: 玉城任、布施陽由、荒木美保、西尾健治

 

キャスト

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シンバ: 島村幸大
ナラ: 空良
ラフィキ: 平田曜子
スカー: 北澤裕輔
ムファサ: 内海雅智
ザズ: 井上隆司
ティモン: 大塚道人
プンバァ: 深見正博
シェンジ: 田代美里
バンザイ: 池田英治
エド: 中村智志
サラビ: 川原晶絵
ヤングシンバ: 佐藤理人
ヤングナラ: 山下小都子
+アンサンブル 26名

 

感想

美しいデザインに溺れる

3年前は2階席後方で見て、1階席に座るのは今回が初めてでした。没入感がもの凄かったです!後方扉から大きな象やサイが通路を通って近づいてきて真横を通り、鳥が真上を飛び、前からはラフィキの歌声、2階からも歌声。全方向からパフォーマンスを浴びて多幸感に包まれました。なんて贅沢な空間なんでしょう😭

動物たちが近くを通る分、パペットの細かい構造や模様もよく観察できてそれも楽しかったです。前回も思ったけれど、私はやっぱりサイのデザインが好きです🦏

操る人間の存在感を有機的に活かしたテイモアのデザインとは反対に、Richard Hudson(リチャード・ハドソン)のセットデザインが人工的でモダンなラインなのは今回新たに気がついた面白さでした。舞台袖は直前的だし、プライドロックも無駄のない美しい曲線で構成されているんですよね。ディズニーの技術があればいくらでもリアルなサバンナを表現できるだろうに、あえて正反対の表現を取っているのが気になります。セットがシンプルな分、複雑なパペットが非常に際立っているのでそんな効果を狙っているのでしょうか。気にしながら見るととても美しいと思いました。

 

物語の価値観には疑問も

そして久しぶりに『ライオンキング』に触れて、この作品の提示する価値観への疑問を思い出しました。馴染みがありすぎて普段は意識に浮上しないものの、改めて見ると気になるところがいくつか。

1番引っかかるのは、プライドロックを出て特に何もしてこなかったシンバが王位につくことです。血縁・縁故主義がすごい。動物の世界を人間の王族に準えた物語なのでそうなるのは当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが気になり始めると気になりますね。放浪していたソーがその間にアスガルドを取り仕切っていたヴァルキリーに王位を明け渡したのを見た影響もあるかもしれません。今同じコンセプトでこの作品を作るとしたらナラが王位に着くかもなとか考えたりもします。

シンバが王として迎えられるのは血縁だけでなく「悪性を敷くスカーと手下のハイエナたちを退けたから」でもあるのですが、王としての器を示す機会が戦いにあるのもだいぶマッチョな世界ですよね。スカーが身体的に強くなくて「暴力は嫌いだ」と言いながら策略を巡らせていたことを考えると、そうしたヴィランをパワーで圧倒するのは果たして正しいのだろうかと考えてしまいます。

あと意外にこたえたのがムファサがザズーをクビにすると冗談で言う場面。ムファサが真剣な言い方をするのでザズーが本当にクビにされると思って慌てるのを笑うシーンなのですが、全然面白くないです・・・。王と従者という強烈な権力勾配がある中でのあのムファサの言動は完全にパワハラですよ。

そんなこんなで気になる価値観は多々あるものの、見ていてすごく感情が高まって感動する(私は主にストーリー面以外で)のもまた事実で、ロングランで愛され続けるのも納得でした。きっとこれからも長く上演されていって、価値観の移り変わりに合わせて『ライオンキング』へのアンチテーゼになる作品が生まれていくのかもしれません。

 

キャスト感想

島村シンバはお顔&メイク&声質の影響で柔和な印象でした。そのおかげで作品自体のマッチョイズムな性質が和らいでいたように思います。お芝居でもちょっと内気というか控えめな性格のシンバになっていて私的には受け入れやすかったです。太々しく粋がっていて等身大の少年感があった理人ヤングシンバからのギャップは感じつつも「ハクナ・マタタで育つとこうなります」と考えるとそれはそれで楽しかったです。

空良ナラはお顔立ちが可愛らしいのだけれど表情にナラのストイックさが表れていてそこがとてもツボでした。ナラが幼めだとスカーがナラを娶ろうとするグロさも際立って良いですよね。歌声もハリがあって素敵でした!

北澤スカーは歌が上手いし落ち着いた振る舞いがゴージャスでした。先月見たJCSのヘロデのイメージも相まってか、今回見ていてスカーにもクィアネスを感じました(多分メイクとか声のトーンとかから)。スカーというキャラクターのクィア性について調べてみたところ、「クィアコーディング」の例としてリトマのアースラと共に名前が上がっているサイトがありました。ヘロデとクィア性の結びつきと同様にまだ私の頭の中でも考えるための整理ができていないのですが、一旦今の状況を書き残しておきます。参考になる文献・サイト等があったら是非是非コメントかSNSでお声がけください。

それからパフォーマンスにすごく惹かれたのはシェンジ役の田代美里さん。台詞も歌もクリアかつ声量もあって聴いていてとっても楽しかったです!!!

 

最後に、有明四季劇場に行ったのは初めてだったのでその愚痴を笑笑 1階の6列目に座ったら、傾斜が少なめなのか前の人の頭が結構舞台にかかって、センター中腹から奥辺りが見えづらかったです。没入感は素晴らしかったけれど、低身長民はやはり後ろに下がるのが吉😢

 

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