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ミュージカル観劇レポの保管庫です

100年越しの初演に立ち会う『ゴースト&レディ』5/6 M 初日 感想

運良く抽選に当たりまして、初日に見てきました👻

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ちなみに皆さん、『ゴースト&レディ』の略称はどうしてます?私は「ゴスレ」で馴染んできたのでそれでいこうかなと思ってます!

作品・公演概要

ミュージカル『ゴースト&レディ』 ※初演
原作: 藤田和日郎による漫画『黒博物館 ゴーストアンドレディ
作曲・編曲: 富貴晴美
脚本・歌詞: 高橋知伽江
演出: Scott Schwartz(スコット・シュワルツ)
劇場: JR東日本四季劇場[秋]

原作者の藤田さんのTwitterから、四季と密に連携できていそうな雰囲気が感じ取れていたので安心していましたが、劇場にもアート作品の寄贈展示があったりして、良い関係が築けているんだろうな〜と思いました🙆‍♀️

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原作絵のパネルもありました。

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キャスト

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フロー: 谷原志音
グレイ: 萩原隆匡
ジョン・ホール: 瀧山久志
デオン・ド・ボーモン: 岡村美南
アレックス・モートン: ぺ ジェヨン
エイミー: 木村奏絵
ウィリアム・ラッセル: 内田圭
ボブ: 平田了祐

+アンサンブル 18人

 

作品感想(レビュー寄り)

原作未見かつ事前情報も見ない&読まないほぼ真っ新な状態で観劇してきました。初演作品の初日特有をわくわく感と緊張感を味わうのはすごく久しぶり(多分、FONSぶり?)。

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1幕があまり刺さらなくて「うーん」と思っていましたが、2幕は怒涛の追い上げで一気に引き込まれました。面白かったです!

作品の魅力は特に演出や照明といった見せ方の部分と愛着の湧くキャラクターにあったと思います。これまで見てきた漫画原作作品に比べて駆け足感や「出来事の羅列」感が薄かったのも良かったです。(今回は新作なのでいつもより批評っぽく書いてみようと思います)

 

演出・照明

舞台に「ゴースト」を出現させる演劇のイリュージョン

今作は、客電が落ちて暗転したところに上手からライトが持ち込まれ、それが鬼火となって漂った先にゴーストのグレイが出現する場面から始まります。暗いところに照明が当たって、何もないところからグレイが現れたように感じる簡単なトリックですが、これは「ゴースト」を舞台上に存在させるための1つ目のイリュージョンです。

浮遊するゴーストが登場するということで、今作には多くのイリュージョンが取り入れられています。その1つ1つも面白いのですが、これらのイリュージョンが作品の冒頭付近に多く見られ、最終盤の大掛かりなフライングアクションを除き、作品の中〜後半では鳴りを顰めるのも面白いと感じました。

作品冒頭ではグレイが馬車から空へと飛び出していくフライング、屋外から家の中への壁の通り抜けといった表現が取られます。対して中〜後半では、グレイが舞台袖から普通に歩いて登場して、歩いて捌けていくシーンが多くなります。

これができるのは、作品前半の複数のイリュージョンでグレイ=ゴーストの認識をしっかり作れているおかげで、私はそこに演劇の面白さを感じました。

 

新たなゴースト(というよりかは魂)が出てくる場面では、再びそれがこの世ならざる者であることを表すために丁寧な表現が取られます。

フローたちが介抱していた兵士が死の淵に差し掛かると、彼らの魂はベッドに寝ている肉体から離れて、舞台袖から差し込む光の方へと歩いていきます。

この場面では某双子芸人の「幽体離脱」ネタがチラついて一瞬笑いそうになりましたが、暗い舞台に差し込む光とそこに歩みを進める魂がとても美しいおかげで舞台から意識が離れずにすみます。

 

過去回想の凝った演出

グレイの過去パートの見せ方も魅力的でした。幼少期〜青年期は『ウィキッド』の「水に溶けるエルファバ」よろしく、布の後ろで演じる役者に背後から照明を当てて影絵のように描かれます。(話は逸れますが、フライングアクションには『リトル・マーメイド』を、回想シーンは全体的な雰囲気に『ノートルダムの鐘』(シュワルツ演出)も感じて、これまでの上演のノウハウが活かされているのかもしれないとも思いました。)

成長したグレイがロンドンへと飛び出す場面になると、布の真ん中から青年グレイを演じる役者が飛び出してきてグレイが影絵から実態になり、布も取り払われて劇場のセットが現れます。影絵が始まる前は布が他のセットに引っかかってもたついていましたが、劇場が現れる転換は見事で息を呑みました。

青年グレイが着ていたジャケットを現在のグレイに渡し、それを現在のグレイが着ることで回想シーンの主役がバトンタッチするのも楽しく、その後の剣術シーンまで見応えがあります。

 

題材・脚本・音楽

漫画原作を感じる「強い」キャラクター

1幕のストーリー展開にあまり魅力を感じなかった私を一気に作品の世界に引き込んだのは、1幕を締めくくる、敵役のゴースト、デオンの登場でした。

それはもちろん岡村美南さんのパフォーマンスやビジュアルに魅了されたからでもあります(詳しくは後半のキャスト感想に書きます🫶)が、属性てんこ盛りの強烈なキャラクターの登場は刺激的でした。登場シーンだけで1幕を閉められるような個性的なキャラクターを0から生み出すのはとても難しいと思うので、漫画原作の強みも感じます。

また、デオンの登場でゴースト同士の会話という新たな次元が物語に加わり、その中で明らかになる彼らの過去や想いを知ることでゴーストという存在により一層愛着が湧きます。

 

難所を補えていない音楽

1幕で描かれる、自らの信念を貫いてクリミアで活躍するフローとあれこれぼやきながらフローに付いていくグレイも愛おしくは感じます。ただ、ナイチンゲールの伝記的な要素が主軸の展開になるため、キャラクター間の関係性を楽しんだり、感情移入したりするにはやや物足りません。フローの置かれた状況を説明するために不可欠な要素ばかりなのはわかりますが、物語としての盛り上がりには欠けます。それから、ヴィラン的立ち位置のジョン・ホール周りについてはキャラクターもエピソードも「弱い」と感じました。アレックス&エイミーのところも表現方法によってはもっと面白く(絶望的に)なりそうだと思ったので、全体的に「人間パートが弱い」と言えます。

今作はミュージカルなので、ナンバーによって感情を盛り上げることができるかもしれません。でも1幕のナンバーはそこまでのパワーを持っていなかったように思います。

今作の楽曲はオーケストラ部分(伴奏という言い方でいいのか?)の魅力が強く、音源なのが勿体無いと感じるほどでした。けれどもナンバーのメロディはキャッチーではなく、あまり印象に残りません。歌詞についても、歌い手の感情が見えにくかったように思います。

物語が大きく動いていく2幕のナンバーには、絶望したフローによる激しいソロ歌唱曲を筆頭に感情を揺さぶられました。

 

中編の完結作品を選んで漫画原作の課題をスキップ

原作漫画の『黒博物館 ゴーストアンドレディ』は全2巻の作品。完結済みの中編作品を原作に持ってきたのが成功のカギだったと思います。

最近は漫画・アニメ原作のグランドミュージカルがたくさん製作されています。私も何作品か観劇しています。その時に感じたのが、何百話、何十巻にも渡るような長いストーリーを2時間半〜3時間に詰め込もうとしたことによる駆け足感や「出来事の羅列」感(感情や関係性よりもエピソードを盛り込むことが優先される)です。『SPY×FAMILY』のように連載が続いている作品では、ストーリーの着地点を用意するのにも苦労していたように思います。

『ゴースト&レディ』は、原作を選んだ段階でこのような漫画原作グランドミュージカルの課題をある程度スキップできています。

 

キャスト感想

谷原フロー

ずっと拝見したかった志音さんのパフォーマンスをついに、このタイミングで見られました!1幕はソプラノ寄りの音域が多くて「ビジュも声も美しいな〜」くらいだったのですが、2幕での業がゴリゴリに乗っかった絶唱で完全にノックアウトでした。最高。

フローの意志の強さが歌声で完璧に表現されているし、お芝居の端々にそれが「頑固さ」や「したたかさ」のような形で表れるのも見ていて楽しかったです。グレイとやり取りしている時の口角がたまらん。志音エビータを私にも見せてください・・・お願いします劇団四季様。

 

萩原グレイ

人間には到底できないことができる上位存在的なゴーストとして登場してから、フローとの掛け合いやデオンの登場による過去の暴露によって徐々に弱みが出て前に出てきて人間臭くなっていくお芝居が素晴らしかったです。愛おしくてたまらなかったです。「100年も経っちまった〜」の言い方、あれはほんとうにずるい!!かっこよすぎました!!!

そして、メイン2人の進む先が恋愛関係だとは思いもせずに見ていて1幕終盤あたりから「え?そういうこと?」と『ダディ・ロング・レッグズ』ぶりにざわざわした私でした笑 普段は恋愛じゃなくてもいいじゃん!と思いがちですが、ゴスレに関してはフローとグレイのもだもだがやたらかわいかったので恋愛要素も楽しかったです。やたら長いカテコも(なんとかしてほしいことに変わりはないが)、2人のハグとハート🫶ではわわ🥺✨ってなってました。

 

岡村デオン

舞台にいる間は常にオペラグラスで追いかけたくなるし、終演後は「美南様・・・」しか言えない妖怪になりました。かっこよすぎるよ!!!

こちらに稽古場写真があります。やば!!!踏んでる踏んでる!!!

男装をして生きてきた決闘代理人、死んだら女の姿のゴーストに、一人称は「僕」、納得できる「終わり」を求めている。デオンは設定からして属性てんこ盛りの強烈なキャラクターなのですが、そこに美南さんのパフォーマンスがかけ合わさってとんでもない魅力になっていました。

何よりも感動したのが「声」。宝塚の男役を思わせるようないつもより低めのトーンの声で発せられる台詞は耳に心地よく、それでいて心にも響いて、一瞬で虜になりました。ビジュアルも強くて(回想シーンの黒髪が特に)、韓ミュの『海賊』に出て!!Love at First Sightして!!!と心の中でうちわを振りました。

 

BTTFも楽しみですね😆⚡️

 

【スコット・シュワルツ×劇団四季関連】

劇団四季関連】