新年度1本目は『VIOLET』でした!
昨年3月の『ジェーン・エア』に続き、春の「屋比久知奈×梅田芸術劇場」の満足度は高かったです。
作品・公演概要
Violet
原作: The Ugliest Pilgrim by Doris Betts(ドリス・ベッツ) (1969 Short story)
作曲: Jeanine Tesori(ジニーン・テソーリ)
脚本・作詞: Brian Crawley(ブライアン・クロウリー)
初演: 1997年 オフ・ブロードウェイ
2014年 ブロードウェイ
2019年 オフ・ウエストエンド
2020年4月 東京(中止)
2020年9月 東京
1997年版は音源が出ていないんだ!という驚きとサットンがBWヴァイオレットだったんだ!という驚き。
ミュージカル『VIOLET』
劇場: 東京芸術劇場 プレイハウス
演出: 藤田俊太郎
翻訳・訳詞: 芝田未希
2019年に梅田芸術劇場とイギリスのCharing Cross Theatre(チャリングクロス劇場)が共同で企画製作して、日本とイギリスで上演したバージョンとは違う新演出版とのこと
キャスト
ヴァイオレット: 屋比久知奈
ヤングヴァイオレット: 生田志守葉
フリック: 東啓介
モンティ: 立石俊樹
父親: spi
伝道師: 原田優一
老婦人: 樹里咲穂
ルーラ: 谷口ゆうな
ミュージックホール・シンガー: sara
ヴァージル: 若林星弥
リロイ: 森山大輔
+スウィング 2名
感想
作品感想
思ったよりも「何も起こらない」作品(というか展開が予想しやすい物語)なのだけれど、ちょっとした台詞の中に人間の歪みや嫌な部分が滲み出るのが面白い作品でした。
この作品には「どうしようもないクソ野郎」は出てこない。(テレビ伝道師は例外かも)でもみんなちょっとずつ人を傷つける発言をして、それを反省する人がいればしない人もいて、その塩梅がすごく人間的だな〜と思いました。私は特にフリックの「お下がりなんて願い下げだ」とモンティの「彼女が苦しむとき、俺は側にいないからね」が好きでした。
主人公が見た目にコンプレックスを抱える少女で、恋愛関係を含む周囲の人との関わりの中で自らの行く道を見つけるというストーリーは同じくテソーリ作曲の『キンバリー・アキンボ』と共通しているし、『シュレック』も見た目による差別が描かれているので、テソーリの題材選びの核はこの辺りにあるのかな〜と考えたりもしました。『モダン・ミリー』はどうなんでしょう。
『VIOLET』では、ヴァイオレットの顔の傷は癒えないけれど傷を付けてしまった父を許すことで心の傷は癒えて前に進めるというように、当人の「気の持ちよう」的な着地点が用意されているのは、シュレックやキンバリーに比べると時代を感じるかも。フリックの「バスから降りてきたお前の顔を見せてやりたかったよ」という台詞はすごくよかったです。恋愛関係がヴァイオレットを癒すという展開にはなっていないところもありがたいですが、なんとなく「刺さりはしないな」という感じで、その理由はまだ私の中でも明らかになっていません。
音楽は「ここでそんなに長く歌わなくてもいいぞ」と思う場面がちょくちょくありつつも、スッと心に染みる楽曲が多くて良かったです。やはりOn My Wayが華やかで好きです。
演出の感想
人種表現の記録
昨年秋の『ラグタイム』では衣装の色味と髪型で白人・黒人・ユダヤ人を視覚的に表現した藤田さん。『VIOLET』では全く異なるアプローチで人種の描き分けに挑んでいました。今作は黒人分離政策が取られていた時代の映像が映し出される中、東さん(以下とんちゃん)演じるフリック、saraさんと谷口さん演じる女性の3人が舞台上に現れて、砂嵐のような音が鳴り響く中で悶え苦しむ場面から始まります。次にキング牧師の肖像が映し出され、公民権法の成立を観客が意識したところで3人は舞台を後にし、幼い日のヴァイオレットが現れます。
ヴァイオレットが現れるまでの場面はオリジナル版にはない要素で、日本での上演にあたってどうしてもわかりづらくなる物語の時代背景と作中で「誰が黒人なのか」を説明するプロローグのようになっています。
この説明のための一連のシーンは、予備知識を入れておらずまた世界史の勉強もおざなりになっている私が今作を見る上でとても助けになりました。ただ1本の作品として捉えると、冒頭にヴァイオレットの外側の世界が描かれることでヴァイオレットという1人の人間の物語としてのまとまりが弱くなってしまっているとも思いました。きっとヴァイオレットの登場に始まり、ヴァイオレットの場面で終わるのが美しい。でも説明しなくてはならないことがある。このジレンマですよね。
水と記憶
人種表現と併せて特殊だったのが回想の演出。冒頭の黒人の歴史を辿るプロローグではフリックが舞台上に現れると背景に水面が映し出されて彼の歩みに合わせて水の音がします。ヤングヴァイオレットが出てくる場面でも同様の演出が入っていて、水と回想を強く結びつけていました。
また、作品冒頭で床面にあった大きなリングがヴァイオレットを中心に天井に上がっていき、作品の最終盤で再び床面に降りてくるという演出は、井戸の底に沈んでいたヴァイオレット(Water in the Well)が水の外へと昇っていくのを表現しているようで、ここでも「水」がキーになっていました。
水の音の描写は所々くどく感じる場面もありましたが、水へのフォーカスとリングの上下でヴァイオレットの未来を明るいものとして描き出す試みは好きでした。
キャスト感想
適材適所キャスティングでみんな役にハマっていました。
屋比久ちゃんは本当に歌が上手い。いつも「ワールドクラスの歌声」だなと感じます。世界中の人に聴かせたいけれど日本で見られなくなるのは嫌だなとか考えちゃいますね🥺💕 屋比久ヴァイオレットのつっけんどんな物言いには、ぐるぐると頭の中で考えを巡らせた過程が透けて見えます。屋比久ちゃんの「期待を裏切られるのが嫌だから自分を卑下して何にも期待しないようにする」お芝居がとても好きです。
それから、新鮮だったのが立石くんのモンティ。これまでWキャストのあれこれでなかなか縁がなくて立石くんを見るのは今回が初めてでした。見た目のイメージからお芝居もきゅるっとした感じなのかなと勝手に想像していたところに、軽薄で勝手極まりないけれど一緒にいる間は本気でヴァイオレットを愛しているようにも感じられるモンティが現れて、すごく驚きました。とても良かったです!!!個人的に大ヒットでした🎯
わかりやすく表に出さないだけでヴァイオレットに心を向けているのがよくわかるspiパパ、熱くそして心の優しさが溢れ出ているとんちゃんフリックもどこからどう見ても胡散臭い原田さん(優ちゃん)伝道師もみんなみんな素敵でした。
それから素晴らしかったのがメンフィス&タルサの女性陣。谷口さんのRaise Me Upでの歌唱がとんでもなく素晴らしかったです。度肝を抜かれました👀
【ジニーン・テソーリ関連】
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【藤田さん関連】