Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

【🇺🇸BW観劇記1-4】倫理観が迷子なのが笑いどころ『Kimberly Akimbo』2/18 M 感想

ブロードウェイ観劇4本目は『キンバリー・アキンボ』にしました!

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昨年のトニー賞の記憶も新しい作品をブロードウェイで見られるのはとても嬉しかったです(作品賞取ってすぐ閉まってしまうものも多いみたいだし)。

作品・公演概要

Kimberly Akimbo
原作: Kimberly Akimbo by David Lindsay-Abaire(デヴィッド・リンゼイ=アベアー)(2000 play)
作曲: Jeanine Tesori(ジニーン・テソーリ)
脚本・作詞: David Lindsay-Abaire
演出: Jessica Stoneジェシカ・ストーン)
初演: 2021年 オフ・ブロードウェイ
         2022年 ブロードウェイ
劇場: Booth Theatre(ブース劇場)
オープン日: 2022年11月10日
クローズ予定日: 2024年4月28日

Kimberly Akimbo (Original Broadway Cast Recording)

Kimberly Akimbo (Original Broadway Cast Recording)

  • David Lindsay-Abaire, ジャニーヌ・テゾーリ & Kimberly Akimbo Original Broadway Cast
  • サウンドトラック
  • ¥2139

 

キャスト

キンバリー: Victoria Clark(ヴィクトリア・クラーク)
セス: Justin Cooleyジャスティン・クーリー)
バディ: Jim Hogan(ジム・ホーガン)(Standby)
パティ: Betsy Morgan(ベッツィ・モーガン(Standby)
デブラ: Bonnie Milligan(ボニー・ミリガン)
デリア: Olivia Elease Hardy(オリビア・エレーズ・ハーディ)
マーティン: Fernell Hogan(ファーネル・ホーガン)
アーロン: Michael Iskander(マイケル・イスカンデル)
テレサ: Nina White(ニーナ・ホワイト)

昨年のトニー賞主演女優賞のヴィクトリア・クラークと助演女優賞のボニー・ミリガンで見られました!やったー!!

 

チケット購入までのあれこれ

日曜日は多くの劇場のボックスオフィスオープン時間が10:00ではなく12:00でした。そうなると朝活全力観光勢の私と友人には困りものでした。別行動していた友人が12:00から『BTTF』のラッシュチケットをゲットしたその足でブース劇場に向かってくれてとてもありがたかったです。

昼公演の$40のラッシュチケット狙いでしたが、まさかの全席完売。でも$40で立ち見席を売ってくれるとのことだったので購入してもらいました。キンバリーの立ち見については公式サイトにもPlaybillのサイトにも記載がなかったのでラッキーでした。

 

いざ、劇場へ

ブース劇場のある通りは劇場街の中でも特に劇場が密集していて、マチネ公演の入場待ちの列が入り乱れて大混雑状態でした。

立ち見席からの眺めはこんな感じ。

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『ハデスタウン』の立ち見では、身体の前にある手すりへの寄りかかりが禁止でしたが、こちらは寄りかかり可能でした。そもそも形状も手すりというよりは肘置きのようで、素材もベルベットでリラックスできるものでした。

2階席が舞台の上方にかかりますが、今作はキャストのパフォーマンスが1階部分で展開されるので問題ありませんでした。セットの2階部分にはバンドがいました。

 

感想

これまでの海外観劇では、映像収録版や映画版、日本語の翻訳上演を見ていたり、音源や戯曲に触れていたり、原作を知っていたりっていう状態だったのですが、今作は真っ新な状態での観劇でした。演目自体が派手ではなく、物語の規模感も小さめなので、細かい会話に編み込まれた登場人物たちの心情やくすっと笑える場面を汲み取れるか結構不安でしたが、案外いけました。子どもたちの合唱ソングになると途端に歌詞が聴き取れなくなるみたいなことは起きますが、他の場面ではリラックスしつつしっかり内容を楽しめた気がします。嬉しい!!

 

通常の4〜5倍のスピードで歳を取る病気を患っていて、その病気の患者の平均寿命である16歳を迎えたキンバリーと彼女の機能不全気味の家族、学校の同級生たちとの関係を描いた作品で、舞台はニュージャージー。1曲目のSkater Planetから「But we'd rather be here skating / In "New Jersey"」というフレーズで爆笑起こるなどローカル色も強めでした。観劇しながら「大都市と隣接しているけれど何もないといわれがち」という点で、ニュージャージーは日本の埼玉県みたいな位置付けなのかなと思って調べてみたら、そういう言説が結構出てきました。

 

キンバリーの両親は次女の出産を控えていて、キンバリーを傷つけようと思っているわけではないけれど言葉や行動の端々に「次の子は『普通』であってほしい」と考えていることが見えてしまうような状況。しかも父親はアルコール依存気味、母親も家庭に献身的ではなくてキンバリーがMake a Wish Foundationへのお願いを考えていて行き着くのが「簡単な家庭料理のあるテーブルを3人で囲みたい。1日だけでも『普通の人たち』みたいに」なのがまた。確かに直前の場面で夜遅くに帰宅したキンバリー(それも酒のせいで父親がお迎えに3時間も遅れた)は、ソファでシリアルを食べていたんですよね。その辺りが本当に綿密に計算された作品で好みでした。

 

しかもメインプロットがこんなにしんどいのに笑いどころは満載。特にキンバリーの叔母であらゆる犯罪に手を染めているデブラが出てくる場面は衝撃と笑いの連続でした。デブラがこれまでの犯罪歴を振り返るBetterは歌詞の内容が面白いし、歌っている内容が酷いのにボニーの歌がやたら上手いのも笑えるし、歌い上げる背景で『ドリームガールズ』の練習をしているキッズ4人の歌声がコーラスになるのも面白いしで爆笑でした。そんなデブラによって持ち込まれるサイドプロットが「みんなで郵便ポストから小切手を盗んで金を手に入れよう」なのがメインプロットから考えると予想外すぎて笑笑笑 デブラの前ではあらゆる倫理観が死滅するので、作品の冒頭から「好きな人は別の人を好き」っていう一方通行状態でもだもだしていたキッズ4人を捕まえて「Gay, Straight, Gay, Straight」とバサッと言ってしまうのも普通なら「え!!アウティング!」って怒る案件なのになぜか笑えて不思議でした。ゲイへの差別が少なくなってきているアメリカ、あるいはニューヨークだからこそ「笑い」に昇華できるのかもしれないなとも思ったり。「あいつはアセクシャルだ」ってのが笑いになる作品もあるのかな、見たいな。

あと私が好きだったのはパティが生まれてくる赤ちゃんに向けたビデオを撮影しながら歌うHello, Darling。「あなたが生まれてくるのを楽しみにしているよ」みたいな話で始まったのに、「私はもうすぐ死ぬかもしれないし、死んだあとで私について嘘をみんなが言うかもしれないからそうしたらあなたが私の名誉を守ってね、そのためのビデオだよ~」っていう内容になっていくのが面白かった。これまた予想外すぎる。繰り返しの使い方もおかしさを倍増させていたし、曲自体にちょっとソンドハイムっぽさもありました。テソーリはソンドハイムと親交が深かったらしく納得です。

 

楽曲では今作を代表するAnagramがやはり印象的でした。アナグラムの得意なセスがキンバリー・ルヴァッコ(Kimberly Levaco)の名前でアナグラムを組んでいく楽曲で、Levacoの綴りを説明したキンバリーが「O」という文字を言った後にセスへの気持ちを「Oh」というフレーズを繰り返すことで表現していくのがオシャレでした。セスへの気持ちを歌うキンバリーの横で夢中でアナグラムに取り組むセスがかわいくてほっこりする場面でした。

 

終盤の展開も好き!

物語はキンバリーの具合が悪くなって入院するところから加速します。死の淵まで近づくキンバリーですが、小切手を引き換える役目を遂行すべく退院して、現金を手に入れて「これで家族旅行に行ける」と揚々と家に帰るとキンバリーの部屋が赤ちゃん用の部屋に改装されています。この場面があまりにも辛くて心がずたぼろになりました。キンバリーの「理想の娘ではなく、今の私を見て見送ってほしい」という言葉を受けて両親は心を入れ替えたような顔をして彼女の手を取りますが、きっとこの先もこの両親は理想と現実の差に苦しみ、それを隠そうとしつつも上手く隠さずにキンバリーを傷つけるんだろうなと思ってしまいました。なので作品がキンバリーとセスが2人で世界を見て回るという展開に落ち着くことにほっとしました。キンバリーがこれから生まれてくる妹にメッセージを残すのも素敵だし、動画を切り忘れてセスとのキスが録画してしまうのもかわいかったです。

キンバリーとセスは盗んだ小切手でロードトリップの時間を得て、キッズ4人も『ドリームガールズ』用のキラキラのブルーの衣装をGetし、なんのお咎めもなしです。やっぱり倫理観がすごい笑笑

 

 

Shrek: The Musicalもリンゼイ=アベアー×テソーリの作品だったんですね!!これを機にブログ内に「J.テソーリ」のタグを作りました。

今年4月に上演される『VIOLET』もテソーリ作品ということで楽しみです!

 

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