Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

オールスターキャストのごった煮はアリだった『カム フロム アウェイ』3/22 M 感想

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作品・公演概要

Come From Away

音楽・詞・脚本: Irene Sankoff(アイリーン・サンコフ)& David Hein(デイヴィッド・へイン)
初演: 2015年 サンディエゴ
    2017年 ブロードウェイ
    2019年 ウエストエンド

Come From Away (Original Broadway Cast Recording)

Come From Away (Original Broadway Cast Recording)

  • ‘Come From Away’ Original Broadway Cast
  • サウンドトラック
  • ¥1528

 

ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』 ※日本初演
劇場: 日生劇場
演出: Christopher Ashley(クリストファー・アシュリー)
翻訳: 常田景子
訳詞: 高橋亜子

ブロードウェイ公演のレプリカ版

 

キャスト

ダイアン: 安蘭けい
ニック: 石川禅
ケビンT: 浦井健治
ボブ: 加藤和樹
ジャニス: 咲妃みゆ
ボニー: シルビア・グラブ
ケビンJ: 田代万里生
クロード: 橋本さとし
ビバリー: 濱田めぐみ
ハンナ: 森公美子
ビューラ: 柚希礼音
オズ: 吉原光夫

スタンバイ 4名

 

感想

2021年に収録された舞台映像をApple TVで見て以来のCome From Awayでした。やっぱり面白い!!!細部は結構忘れていたので心臓外科医とかブラジャーを見せる乗客とかすごい笑いました。

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母国語で楽しめる幸せ

1曲目のWelcome to the Rockから一気に引き込まれて、ハイペースで繰り広げられる台詞と流れるように組み込まれる楽曲が心地よくてとても好きな演目です。情報量が多い分、母語で上演を見られる贅沢さも感じました。高橋亜子さんの訳詞は流石で、原語詞をすっかり覚えてしまっているMe and the Skyもすっと頭に入ってきました。どう訳すかな~と気になっていた「American Airlines had the prettiest planes」は「アメリカンエアライン 憧れだった」になっていました。好きだった「the prettiest planes」は消えてましたが文字数的に仕方ない。もっとちゃんと訳詞の味も楽しみたいのでなんらかの形で訳詞が残ってくれると嬉しいですね。この作品の歌詞を日本語で聴いていると、国内の自然災害の記憶と頭の中でリンクするような瞬間もあり、翻訳上演の意義が強く感じられました。

亜子さんのTwitterにはこんな投稿も。亜子さんの訳詞制作裏話はいつも面白くて好きです。

https://x.com/ako_takahashi/status/1771553581147230254?s=46&t=0q_MRc-VuglC34PSZduEaA

カムフロムアウェイの「I'm an Islander, I am an Islander」の訳詞ですっごく悩んだ話をさせて。

「I'm an Islander, I am an Islander」
「そう 我らこの島の民」

このフレーズ、全編を通して何度も出てきて、島人であることの誇りも語ってるから何とか良い日本語にしたいと必死でしたが…

これ、M1で最初に出てくるとき、2つのグループに分かれて歌っていて、男性陣が「Welcome to the Rock」と歌う、その最後の「Rock」にかぶって女性陣が「I'm an Islander」って入ってくるんです。
で、男性陣が歌に加わってくるのが「I am an Islander」からなんですけど、このときの「I」は「そう われらこの しーまのたみ」の1個目の「の」です。
譜面通りに歌うと、男性陣は「のしーまのたみ」って歌うことになるんです。

それじゃ駄目だから別の言葉に…と思っても、「の」の音のあとに八分休符があるので、例えば「の」の音から始まる歌詞にしようとして「そう 我らは 島の民だ」にしたとしても…
「そう 我らはし(休符)まーのたみだ」
となって「島」という言葉が分割されてしまう。
日本語では1つの音符で言える言葉はないので、この譜面通りにはどうしても作れない💦
まだ四分音符なら感嘆符が使えるんですけど(最初の「そう」はまさにそれ)
ここは八分音符なので万事休す

さんざんこれを悩んだ末に、音符を足すいくつかのパターンとそれぞれの訳詞を出して、音楽監督の甲斐先生にご相談し、男性陣の入りを一つ前の音符からにしてもらいました。
だからこの部分、男性陣は「このしーまの民」から加わってます。
英語の歌詞で言うと1個目の「Islander」の「er」の音から入ってます。
 
通常、レプリカ公演だとこういうことは事前に海外と相談できないので、譜面通りに何とか訳詞するか、とにかく音符を増やしちゃって、あとで交渉するかなんですけど、稽古前に海外チームと打合せできないことも多いので(今回もそうでしたが)稽古に入ってから「なんじゃこりゃ?」とか言われて「いや、カクカクシカジカで…」と説明することもあります。
説明しても海外の方は日本語がどういう言語なのか全然ご存じないので、なんで???って感じになることも多いです。

今回は海外チームが来る前に事前の歌稽古があったので、音監が甲斐先生で本当に良かったです。本稽古に入ってからの調整では全然遅かった。
他にもいくつかこういう音符の変更をしていただいてます。
Prayer の「主よ 願い叶えたまえ」の「主」の音も本当は無いです🎵

 

めぐさんのMe and the Sky

そして私はめぐさんのビバリー・バス機長をとてもとても楽しみにしていたのでMe and the Skyのイントロから目がうるうるになってしまいました。大好きな楽曲が素晴らしい歌声の持ち主に届いた喜び!(日本では最高の楽曲があったとしても実力のあるミュージカル俳優によってパフォーマンスされるかどうかはわからないのでね🙄) めぐさんのMe and the Skyはビバリーのこれまでの人生が映像として見えてくるような歌唱でした。特に「Then suddenly the wheels lift off〜」の部分では機体が徐々に宙に浮き、コックピットの窓の外に見える景色が遠ざかっていく様子がめぐさんの表情や目線によって完全に「見えました」。高音も安定していて流石。38 Planesリプライズの「USA〜」もばっちりで、めぐさん機長で本当に良かった😭と思いました。

しかも終演後にふと気になって調べたら、めぐさんはちょうど51歳らしく、そこにもビバリーとの繋がりを感じてさらに嬉しくなりました。ミドルエイジ女性が花形のミュージカル作品は少なすぎる気がしているので、こうしてかっこいい役が素晴らしい俳優さんによってパフォーマンスされて、愛されていくのは若い世代の役者にとっても嬉しいんじゃないかなと作品の外側にも希望を感じました。Me and the Skyはこれからたくさんの俳優さんに歌い継がれていってほしい!めぐさんビバリーは人当たりが良くて、おじさんパイロットたちに呆れながらも揉めずにそれなりに切り抜けていそうな雰囲気があったので、好戦的なビバリーも今後見てみたいな〜とも思います。

そんなことを考えていたら3月24日に和音美桜さんがコンサートでこの曲を歌ったとか!聴きたかった〜!!この勢いでミュージカルコンサートの定番に定着してほしいです🫶

 

「オールスターキャスト」ならではのごちゃごちゃ感

さて、情報解禁時は物議を醸した「オールスターキャスト」での上演ですが、実際に見てみると「これはこれでいい」と思えました。日本ではアンサンブルとプリンシパルのオーディションが別れていたりそもそもプリンシパルがオファーで決まることが多かったりと、アンサンブルからプリンシパルに挑戦できる機会が少ない状況で、技術の高いアンサンブルの方々も多いこともあり「全員がアンサンブル的に複数の役を演じる今作こそ、普段アンサンブルを務める方々に任せてほしかった」という意見が多く見られました。私もその気持ちは大きかったですし、こうして作品が愛されるようになったからには今後はそういった形で作品が展開されていけば嬉しいなと思っています。

それはそれとして、今回の「オールスターキャストCFA」もまた良かったです。主役級を務めてきた12人の俳優さんたちはこれまでの経歴を見ても、声楽、劇団四季、宝塚、新感線、クンツェ&リーヴァイ方面、キャメロン・マッキントッシュ方面とバックグラウンドが幅広く、それに伴って歌い方や踊り方の違いも大きかったです。この個性豊かな方々が集まったごった煮状態が、言語・国籍・人種・宗教の違う人たちが突然一堂に会することとなる作品にはハマっているように感じました。ユニゾンでは聴き馴染みのある12の歌声が混ざり合わずに耳に届き(万里生さんの元気なスーパー強ボイスが飛んでくる先陣を切って飛んでくる😂)、ジャンプのタイミングや動きにも音の中で微妙なズレが見える。でもナンバー、作品としてのまとまりはしっかりとあるというのはこのメンバーで上演したことの魅力だったと思います。

特に好きだったのは禅さんニックと安蘭けいさん(以下とうこさん)ダイアンのパート。2人の生む絶妙に気まずい空気感が素晴らしかったです。私はとうこさんのビジュがかっこいいものの微妙に「普通」からは外れた言動をしがちでそれでいて思いっきりの良いところもある役柄が好きな人間なので今回のダイアンのお芝居も好きでした。「私はバナナアレルギー。水疱瘡にかかったことはありません」の言い方と表情が絶妙すぎるのさ。そして禅さんのロマンスパートが見られる幸せよ。こういうのをもっと見たいんだよ各所!!!

スペイン語を話す体育教師(光夫さん)とハンサムなパイロット(和樹さん)に口説かれる妄想が止まらないめぐさんアネットもよかったな〜。きゃーー😆って感じの表情がかわいかったです。咲妃みゆさん(以下ゆうみちゃん)のウォルマート店員も言葉では形容し難いのですが面白さがすごかったです。台詞の言い方とほんの少しだけ背中を丸めた姿勢が最高すぎる。

あと柚希礼音さん(以下ちえさん)のビューラがとても良かったです。『FACTORY GIRLS』を見たときにも感じた、ちえさんのお芝居における包容力と人に寄り添う心の表現がビューラの役にぴったりハマっていました。大正解キャスティング!!

そして私は橋本さとしさんが好きですわ〜。台詞のリズムや言い方、間の取り方、発声、動作、表情、何をとってもあまりにも「良すぎる」。『サムシング・ロッテン!』のノストラダムスとか『アダムス・ファミリー』のゴメスとかに間に合いたい人生だったよ〜!!

 

日生劇場のロビーがデコレーションされていたのも良かったです✨ 観劇した日の思い出が写真として残ることって、SNSでの発信にも繋がるし、観劇人口の拡大には1つ大事な要素なんじゃないかな〜と個人的には思っているのです。

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