Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

【🇺🇸BW観劇記1-2】詩人としての選択なのか『Hadestown』2/17 M 感想

ブロードウェイ観劇旅行、2本目は『ハデスタウン』になりました!

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ちょうどミュージカル観劇を本格的に始めた2021年2月ごろに

ハミルトン、ムーランルージュを生で見るまでは死ねない!って思ってたけどそこにハデスタウンが追加されました

と投稿していた私、3年越しに夢を叶えていました。

作品・公演概要

Hadestown
原作: Ὀρφεύς, Εὐρυδίκη(Ancient Greek myth)
音楽・詞・脚本: Anaïs Mitchell(アナイス・ミッチェル)
初演: 2006年 バリバーモント州
    2010年 コンセプトアルバム
    2016年 オフ・ブロードウェイ
    2018年 ロンドン
    2019年 ブロードウェイ
劇場: Walter Kerr Theatre(ウォルター・カー劇場)
演出: Rachel Chavkin(レイチェル・チャフキン)
オープン日: 2019年4月17日

 

キャスト

オルフェウス: Jordan Fisher(ジョーダン・フィッシャー)
エウリディケ: Lola Tung(ローラ・タン)
ペルセフォネ: Ani Difranco(アニー・ディフランコ
ハデス: Phillip Boykin(フィリップ・ボイキン)
ヘルメス: Max Kumangai(Swing)
運命の三女神: Belén Moyano、Kay Trindad、Brit West
労働者: Emily Afton、Malcolm Armwood、Chibueze Ihuoma、Alex Puette、Grace Yoo

本役ヘルメスはLillias Whiteの女性ヘルメスだったと知ってちょっと悔しいですが、スウィングとは知らずに見たMaxのヘルメスは大変かっこよかったので良かったです。そろそろオルフェウスを女性にした女女ハデスタウンが見たい気もするんだけれどそうすると『燃ゆる女の肖像』に寄りすぎ?

Lola Tungは今年の3月17日にファイナルと予定されていました。

 

チケット購入までのあれこれ

この日の朝は『Back to the Future The Musical』のRush Ticketsの列に朝から並んでいて、もう1演目は何を見るか決めていない状態でした。『& Juliet』のRushがデジタルで9:00に売り出されたけど瞬殺すぎて取れず、またこの週末はどこの劇場も完売気味で残席の価格高騰も激しい。

そんな中、完売公演の『Hadestown』は$39の立ち見席が販売されるとのことだったので、BTTFのチケットを取り終わった後すぐにウォルター・カー劇場に向かいました。売り切れないか不安でしたが10:18には立ち見席のチケットを購入できました。

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立ち見の9番は1番外側のポジションだったので、ギリギリ買えたという感じだったのかもしれません。ラッキー!

 

いざ、劇場へ

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ウォルター・カー劇場は『ハデスタウン』に合わせて赤い花で装飾されていました。

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ところどころに午前中に降った雪が積もっていてそれもまた可愛かったです。

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立ち見9番からの眺め。「Partical View」表記があったとおり、天井によってハデスとペルセフォネがいる2階部分が見切れます。ただ立ち見で割と動ける分、その場で屈めば2階のセットも見ることはできました。劇場があまり大きくないので1階の1番後ろでも舞台はかなり近く感じました。

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開演前に立ち見席向けの注意事項が説明されて、手すりを掴むのはOKだけど寄りかかるのはNG、手すりから離れて壁際まで下がるのもNGでした。寄りかかりは前に座っているお客さんに当たってしまう可能性があるからですね。壁際まで下がってはいけないのは、オルフェウスがエウリディケを迎えに行くシーンで客席から舞台に上がるためのスタンバイを1階の後ろでするからだと本編を見ていてわかりました。上手のドアから出てきたオルフェが私の後ろを駆け抜けていって準備のポジションに着くのが見えて楽しかったです。結構早めからギターを抱えて三角座りで待機しているジョーダンオルフェがかわいかったな。

 

感想

ずっとOBCを聴き込んできた『ハデスタウン』、やっと本編を生で見ることができて良かったです。とにかく音楽がかっこいいので生演奏で楽曲を浴びられたのが楽しかったのと、立ち見で横の人との間隔も多かった分ちょっとリズムに揺られながら見られたのが心地よかったです(横の方もちょい揺れしてた笑)。OBCメンバーのイメージが強すぎて、他のキャストで見て楽しめるかなという不安がありましたが、別キャストで見るとまた違った楽しさがありますね!

特にオルフェウスはオリキャスのリーヴ・カーニーの歌声ありきでは?みたいな楽曲なので、あれを歌いこなせる人はいるのだろうかと思っていましたがジョーダン・フィッシャーがそんな不安をあっさり飛び越えてきて笑っちゃいました。ジョーダンオルフェは高音が柔らかくて暖かく、本当に春を呼び戻しそうだなと思いました。Wait for Meなんかはかなり力強くてこれもまたリーヴオルフェとはまた違った魅力で聴いていてとても楽しかったです。歌が上手い人はどんどんオルフェウスをやったらええ。

そしてジョーダンオルフェは全体的に可愛らしかったです。Come Home with Meでは大爆笑が起っていましたが「やべえ奴」というよりかは「かわいいな☺️」ってなる雰囲気でした。本当に誠実で純粋でまっすぐなオルフェでした。

ローラエウリディケはもうちょっと歌にも芝居にもパンチが欲しいなと思いつつ、学園ドラマに出てくる警戒心強めで斜に構えたティーンエイジャー感が強くて愛おしかったです。エウリディケが寒さや飢餓によって受ける苦しみがヒリヒリと伝わってくるようでした。Flowersでは息をするのも苦しそうに言葉を紡ぎ出して床に崩れ落ちてしまう姿が強く印象に残りました。

アニーペルセフォネはほどよく酔いが回っているようなアンニュイな雰囲気が素敵で、フィリップハデスはとてもコミカルでハデスってこんなに笑いを取る役どころだったのか!?と驚きました。

そしてスウィングのマックスによるヘルメスがとても良かった〜!歌声が伸びやかでかなり心地よかったです。上手い!若めのヘルメスもまたホットでいいですね〜。ヘルメスという役は演じる役者に無限の幅がある気がします。本当に素敵でした。

この作品はこれまで音楽として楽しんできた側面が大きかったので、自分の頭の中にあったぼんやりとしたイメージが実際の上演を通してミュージカル作品として目の前に立ち上がってくる感覚があってそれもまた楽しかったです。

ビジュアル面では地下へと続く扉が開いて電飾の明かりが舞台上に差し込むのが強烈でした。オルフェが地上と地下を繋ぐ道を歩く場面で舞台上にモヤがかかって、モヤの中ならFatesがふっと現れては消えてを繰り返しながらオルフェに語りかけるのも幻想的で素晴らしかったです!神話の世界が目の前に広がりました。

 

オルフェウスはなぜ振り返ったのか」というのは永遠と考え続けられてきた問いですが、『ハデスタウン』ではどうなのかというのも今回生で観劇して初めて考え始めました。もちろんDoubt Comes Inという曲で表現されるように猜疑心に苛まれたからというのがあるとはいえ、やっぱり他にも理由を探してしまいます。この作品では冥界が外界との間に作られた壁とその中で働く労働者たちによって貧しさや飢え、寒さから解放された世界として描かれます。ハデスと契約関係を結んだ労働者たちは貧しさから解放される一方で日に日に自我を失っていきます。

ハデスタウンの性質を端的に表したWhy We Build the Wallを聴いて真っ先に頭に浮かぶのはトランプによる「移民の流入を防ぐためにアメリカとメキシコの国境に壁を作る」という発言でした。厳しい環境に置かれた人々を排除して自分のテリトリーの繁栄だけを追求する姿勢が重なります。そう考えるとハデスタウンは自国の利益を追求する資本主義国家に見えてくるのだけれど、そこで働く労働者たちは同じような服を着て個性を失っていくというところやハデスの後に続いて皆で同じ言葉を唱えるところなんかは共産主義国家っぽくもあり(突き詰めればどちらも画一的な労働者を欲するのかな)、ハデスタウンの特徴は過度な経済活動くらいに考えておくのがいいのかもしれません。過度な経済活動で発達した国と気候が厳しくなって飢える人々。しっかり現実世界の似姿が見えてきました。そしてハデスタウンの特徴を過度な経済活動とするならば、芸術家であるオルフェウスはそれに対立する存在だと考えられます。

ここで思い出したのが『燃ゆる女の肖像』でマリアンヌが言う«il ne fait pas le choix de l'amoureux, il fait le choix du poète.»というフレーズ。ここでは恋人としての選択と詩人としての選択を天秤にかけているけれど、あと少しで地上に辿り着きハデスとの取引を終えようとする場面で振り返った『ハデスタウン』のオルフェウスは契約や取引の中に組み込まれるのを拒んだようにも見えて、ここにも「詩人としての選択」「芸術家としての選択」を見て取れるんじゃないかなと考えました。

この問題はこれからもずっと考えることになりそうです。

 

【3/6 追記】

Fatesの写真が可愛かったので載せとく

 

 

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