Mind Palaceがない代わりに

ミュージカル観劇レポの保管庫です

10月の鑑賞記録 (ミュージカルについてたくさん考えた観劇の秋)

卒論のテーマを考えるべく『ミュージカルの歴史』を読んだことで、作品を見るときにも「ミュージカル」という表現形式そのものへの意識を持つようになりました。卒論のテーマは迷走中です。困った困った🙄

📚 ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン (1999-2003)

読み終わってしまっったーーーーーー!6部のビジュアルがあまりにも好きで6部アニメから突然ジョジョに飛び込んでいて、漫画は1部2部と並行して6部も読んできました。漫画だとスタンドでのバトルは何が起こっているか分かりにくい部分もありつつ、漫画ならではの絵の楽しさが大きくて1ページ1ページ隅々まで見て大興奮でした。

話自体は大味だけれどそれを補っても有り余る画の強さとキャラクターの魅力に引き込まれました。こんなにメインキャラクター全員を好きな作品は珍しいかも。徐倫ヘアで出かけたいです。

📚 サロメ (平野啓一郎訳)

斬首描写がある作品や生首が出てくる作品が好みなので、そろそろ読まなくてはと思っていたサロメ。戯曲は思ったよりも短くてあっさりしていた。でもやっぱり「首」をほしがるっていうのがたまらなく魅力的で、なぜこんなにも「首」というモチーフが人の心を掻き立てるのか気になります。そんなところに『斬首の光景』という「首」に関する美学の書籍を見つけまして。絶版になっていたのをメルカリで発見して、定価だったので買ってしまいました。定価でもちょっとお高かったし、まだ積んでますが早く読みたい積み本ランキング1位です。

サロメ』の話に戻ると、サロメには男性の理想や欲望を押し付けられているとして批判する見方があると同時に、作品を読んだ女性たちがサロメを自由に生きる新しい時代の女性の象徴として受け入れ愛していたらしく面白いな〜と思いました。

🎭 ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』10/3 S

公演は素晴らしかったし、KBを見るのは大好きなんですけれど、作品そのものに対して何かモヤっとする部分もあって、そこのところが今回の公演を通して自分の中で整理できたのがよかったです!

城田ローラでっかくてファビュラスでした

🎭 conSept Musical Drama #7 SERI ~ひとつのいのち 10/6 S

conSeptさんのオリジナルミュージカル作品には、ハッとさせられる要素があったり、日々を生きる中で自分が抱えている不満や不安が舞台上で描かれる嬉しさがあったりして見るのがとても楽しいです🌱

🎭 ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』10/8 S

すっかり頭をJB楽曲に支配されていた1ヶ月間でした。気を抜くと「Oh〜What a night〜」ってJBメドレーが脳内されてしまいます😂

📺 オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ シーズン2 (2022)

内容はめちゃくちゃだけれど、麻生久美子さんがかわいい。

📚 ミュージカルの歴史 - なぜ突然歌いだすのか (2022)

映画やミュージカルにおいて、音楽がどのような働きをするのかというのがわかりやすく書かれているので、今までミュージカルを見ていく中で全然言語化できていなかった部分が整理されて嬉しかったです。

あとHairとJCSあたりのロックミュージカル誕生の話がとっても面白かったです。Hair見てみたいな〜🥺 確かザイベルトやってましたよね?

🎭 ミュージカル『エリザベート』10/14 S

ちゃぴシシィの「私だけに」がかっこよすぎて心臓ばっくばくになりました。古川閣下全然相手にされてない😂

🎭 ミュージカル『ミス・サイゴン』10/15 M

初の国内遠征でした〜富山公演!

良い音響の劇場で屋比久キムと海宝クリスの歌を浴びられて幸せでいっぱいでした☺️

📻 白狐魔記 蒙古の波 (2014)

同じ鎌倉時代とはいえ蒙古襲来の時期なのに和田殿がいるんだが〜🥺ってなりました(栄司さんは全然違う武士の役です)

🎭 ミュージカル『エリザベート』10/21 M

フランツ以外プリンシパル同じキャストなのにシシィとトート閣下のパワーバランスが前回見た時と違いすぎて衝撃を受けてました

📹 愛と哀しみのシャーロック・ホームズ (2019)

和田殿と実朝にはずっと仲良く鹿鍋してて欲しいんだよ😭😭😭って、鎌倉殿和田義盛退場に向けて悲しさが募っていたので久しぶりに見ました。和田殿はあんなに可愛いのにマイクロフトは嫌味で全然可愛くないので俳優さんってすごいな〜って思いました😗 実朝は動きが少ないので、シャーリーで初っ端から哀しくもないのに床を転がっている柿澤さんは新鮮でした。

三谷さん作で実朝比企和田蒲殿揃ってるのに再放送しなかったWOWOWが私にはわからん。

📺 She-Hulk: Attorney at Law (2022)

第4の壁破ってくる主人公大好き芸人なので楽しかったです〜!そして色々とエグかった😫 ジェンがプライベートな動画を晒されるシーンはとても怖かった。辛すぎる。他にもミソジニスト集団の発言内容であったりがあまりにもリアルで恐ろしかったです。

ラストの展開はかなりトリッキーだったので賛否両論になりそうですね。なんでもかんでもアッセンブルさせて盛り上げ方が大味になってきているMCUへの自己反省という意味では面白かったです。

ケヴィン・ファイギAI説とか秘密保持書類のくだりは面白かったことには面白かったけれど内輪ネタすぎるかなとも。元々MCUは途中から見て楽しいもんでもないからとも思うけれど、例えば私の父は作品は全部見ているけどケヴィン・ファイギの名前は多分知らないと思います。あまりにもオタク向けに作りすぎた場合、作品だけを純粋に楽しんでいる観客層は置き去りになると思うのでやりすぎは良くないかと🤔

ニッキがめっちゃ素敵なのでこれからも出てきてほしいなと、レネイ姐さん演じるマロリーがとっても好き!女性弁護士アワードで「女性弁護士であることはどういうことですか?」って聞かれて「女性弁護士であるとはどういうことですか?って聞かれること。仕事量は2倍評価は半分」🙄🙄🙄って発言してたのも最高だった〜

🎞 Evita (1996)

The Waltz for Eva and Cheについに出会ってしまいました😆💕💕💕 なにこの最高のデュエット!分かり合えない2人が分かり合えないなりにワルツを踊るって状況(しかも2人は直接的に出会うこともないのに)が最高だし、ロマンスが徹底的に排除された男女のデュエットは希少!物語が全部このワルツのためにあるような感動がありました。

📹『HEADS UP!』(2018)

YouTubeで無料公開してくれているのでありがたく拝見しました!

普段私たち観客が席に着くまでに舞台では何が行われているのか、それが垣間見える楽しいバックステージミュージカル。

有名な「公演は絶対にやる、だって私たちはもうチケットを売ったんだもの。いいですか、チケットを売ったってことは約束したってことなんですよ。いい芝居をしますって。」という台詞など舞台好きの人間に刺さる台詞がたくさんありました。ただ、今作では悪者にされている演出家の、「作品の良し悪しにスタッフの頑張りは関係ない」という台詞も観客としては擁護したくなります。正直「ドルガンチェの靴」を見せられたら私はキレるので。なのであくまで今作はあくまでファンタジーとして受け止めるのがいいんだと思います。

私はあっきーさん演じる熊川の台詞が好きでした。

観客はセットやスタッフワークを見にくるわけじゃないです。実は俳優でもない。それらすべてが発する熱を感じにくるんです。

🎭 ミュージカル『美女と野獣』10/29 S

あんまり刺さらなかったです・・・「愛せぬならば」は最高でした。

🪩 Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA" 10/30

スタンド1列目しかもセンターでとんでもなく見やすい席で嬉しかったです😆✨ 前が広々してるからPTAコーナー踊りやすいです。せっかく拾った栗のカゴを投げ捨てるあ〜ちゃんに爆笑しました。

🌟

私的ヒットチューン

This Is Your Round of Applause - Ariana DeBose

2022年トニー賞のオープニングナンバーです。WOWOWでプラチナジュビリーの再放送を録画する→SIXラブだわ〜💕→トニー賞の録画も続けて見ちゃお→やっぱりオープニング最強だわ😭😭😭 って流れで再ブームが来ました。

December, 1963 - Frankie Valli & The Four Seasons

本気で頭から離れませんでした。エリザ見に行っても帝劇2階のビジョンで永遠にJBのトレーラー流れているので、開演前と幕間ですっかり頭がJBモードになってしまいます😂

December, 1963 (Oh, What a Night)

December, 1963 (Oh, What a Night)

  • The Four Seasons
  • ロック
  • ¥255

最後のダンス - 『エリザベート

私は伊礼トート閣下を待ち侘びているので東宝さん(というかイケコ)そこんとこよろしくお願いします。

このアレンジの最後の「勝つのは〜エリザベー↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑」が大好きなんですよね。ドイツ語版の「あーらいめ でぃ〜↑↑↑↑↑」にあたる部分が東宝版だとないじゃないですか。「俺さ〜」の伸ばしをオクターブ上げするよりも「エリザベー↑↑↑↑」であげた方が盛り上がるし、歌いやすい気がするんですけどなんで最後の音階は丸々カットなんでしょう。

最後のダンス

最後のダンス

  • 伊礼彼方
  • J-Pop
  • ¥255

Der Letzte Tanz - Elisabeth

これ聴いてもらえると私がなにを言ってるのか伝わると思います。ザイベルト閣下大好き💕

Der Letzte Tanz

Der Letzte Tanz

  • Jubiläumscast Wien 2012
  • ポップ
  • ¥204

Waltz for Eva and Che - Eviva

フォロワーさんが作っていた「エヴァとチェのワルツ」だけを集めたプレイリストを永遠と回しています。最高ですね。日本語版はカラオケにも入っているからデュエットしたいものです☺️ 誰ととって問題は大きいですがーーーー

Waltz for Eva and Che

Waltz for Eva and Che

 

開幕1週目!ミュージカル『美女と野獣』10/29 S 感想

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好きだった部分もたくさんあるし、楽しかった場面も多いけれど、舞台作品としてあんまり刺さらんかったな〜というミュオタが、自分に刺さらなかった理由を考えていくって感じの感想になります。

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まずは、好きだった部分から。

ビーストが好き

1番はやはり1幕終わりの「愛せぬならば」です!!!!最高の歌唱でした😭😭😭この作品はこの場面のためにあるっていう山場がどの作品にもあると私は思っているんですけど、BBに関しては確実にこの場面がそれに当たります。清水ビーストは低音の厚みも素晴らしいし、ラストの伸ばしでビブラートをギリギリまでかけずに飛ばしてくるので大興奮でした〜

全編通してビーストがやたらかわいいのよ。アニメ版もかわいいけれど、舞台版はまた違ったかわいさがありますね。しっぽの感じとかね。そして多分これは日本語特有だと思うんだけど語尾がかわいい。「かな」とか使う。かわいい。観劇中の思考の5割は野獣がかわいいでした。

ベルにアーサー王物語を読み聞かせしてもらうときの反応もね、とってもかわいいんですよ。ちょこんと座って礼儀正しく読み聞かせに耳を傾けていて。1幕序盤でガストンの「本を読んで何の得になる?」とか「知性のある女は不幸になる」的な発言があるので、もともとは読み書きがほとんどできなかった野獣がベルの読み聞かせを通して物語の面白さを知って2人が意気投合していくって流れもいいなと思いました。

あと、ピンクのドレスに着替えたベルを前にした時にルミエールから「服について何か言って!」とアドバイスされた結果の「ピンクだ!!」発言と、さらに「服を褒めて!」と言われる感じが、ちょうど前日に放送があったグリブラの「16歳の極意」回で見たシチュエーションに似すぎていて思わぬところで笑ってしまいました。(集中して!)

ルミエールも好き

ルミエールの手のキャンドル、ガチの火ですよね???あれって手元かスタッフさんかどっちが操作してるんですかね。煙がもくもく出てたのでうわ、本物!?!?って衝撃でした。客席と舞台が近いのでそのこだわりは素晴らしいなと感じました。

そして大木ルミエールとっても素敵でした〜☺️ エレガントさと好色さのバランスがとんでもなくいい。バベットとの絡みも微笑ましくて2人がきゃっきゃうふふしてんのずっと見ていられます。バベットのチュチュも大変可愛かったな〜💕

ベルの眼鏡

舞台版のベルは本を読む時に眼鏡をかけます。「なぜ眼鏡をかけたプリンセスはいないの?」という問いかけに応える形なのかな。いいと思います!

10歳くらい年下の知り合いが、小さい頃から視力が弱かった関係で眼鏡を着用する必要があって、それをとても嫌がっていたのを思い出しました。あのときの彼女がベルも眼鏡をかけると知っていたらもしかしたら前向きに眼鏡をかけられたかもしれない。ベルは本編中ずっと眼鏡をかけるわけではないですが、こういった小さな工夫でも幸せになる人が増えると思うのでディズニーには頑張ってもらいたいですね。保守的だ保守的だってディズニーのこといつも批判しちゃうけれど、期待してますからね。

ベルに関連したシーンでは、洗濯物を取り込むベルをガストンが邪魔してくる場面が面白かったです。ガストンが洗濯籠を取り上げてくるんですけど、ベルはそのままガストンに籠を持たせておいてそこにせっせと洗濯物を入れていっていて笑いました。五所ベルはそういう強かさが際立っていて素敵です。

ガストンと夜襲

「ガストン」や「夜襲の歌」の場面は舞台ならではの盛り上がりと迫力があってとても楽しかったです。やっぱり群舞や大人数でのナンバーは迫力があります。特に夜襲のコーラスは厚みがすごくてさすが四季だ!!!となりました。

城に攻め込んできたガストンとビーストの戦いの場面もかなり良かったです。アニメーションや漫画を舞台化するときに戦闘シーンで勢いが削がれるというのは常々感じているのですが、BBでは音楽の迫力と雷鳴、照明で迫力のある戦闘に仕上げていました。ガストンが野獣を殴ったり蹴ったりする瞬間に雷鳴と一瞬の明るい照明を合わせて打撃を大きく見せていました。こういった舞台ならではの困難を見せ方で乗り越えるシーンに出会うとテンション上がります!!野獣から王子への変身もよかったです。空中でクルクル回されとる。

 

ここからは刺さらなかった理由を探求します。

まだ開幕1週間ってのもあるかもしれないけれど、芝居パートのテンポが悪いかなと思ったのと台詞と台詞、台詞と音楽の細かい間が微妙に長くてもどかしさを感じました。台詞自体もゆっくりめかも。ただこれはある程度仕方ないのかもしれないとも思います。最近四季のディズニー演目見ていないので、他の演目がどうだったか記憶がたしかではないけれど、私が普段見ているミュージカル作品に比べてディズニー演目は作品を見る層がおそらくかなり広くて、さらに舞浜で上演することで普段はミュージカルに接していない層も多く観劇することが予想できる。となると少しゆっくりめで、誰でも着いていけるテンポで進めるってところを目指すことになるのかもしれないですね。私は畳み掛けるような会話が好きなのでその点ちょっと物足りなく感じました。

 

あとは、これを言ったら元も子もないのかもしれないけれど、あんまり舞台化によって生まれてくる面白さが見えてこなかったなと思います。さっきあげたように、ガストンや夜襲での群衆の動きや厚いコーラスには舞台特有の楽しさがふんだんに詰め込まれていたし、If I Can't Love HerやHuman Againといった追加楽曲も良かったんですけどそれでももっと舞台化特有の旨味を求めてしまいます。。。あとA Change In Meが個人的にそこまで刺さらなかったのも2幕でテンションが上がりきらなかった理由としてはあるかもしれないですね。

Be Our Guestとかはやっぱりアニメーションの華やかさが焼き付いている分、ちょっと寂しく思えたりってのもありました。(あのシーンも脚上げはとても好き)

 

それから、1番最初の曲の最初のフレーズの音がペラペラで一気に舞台との心の距離ができてしまいました。その後は気にならなくなっていったから最初のところだけなんとかならんかなと余計に思ってしまいました。生オケは生オケで膨大なお金がかかるし、最近だとエリザベートのトランペットが不安定問題とかも話題になっているし色々な難点があるし、四季の選択が悪いとも思わないんですけど、最初の音はなんとか響き調節してもらいたいです。

 

色々書いたんですけど、多分パークと隣接した場所で上演する演目としては正解なんだろうなとは感じています。私が気になったテンポの遅さも裏を返せば、誰もがついていけるスピードとも取ることができると言えるわけですし。私には合わない、ただそれだけなのかもしれません。

舞浜に劇場があることで、これまで観劇してこなかった人がミュージカルに触れる機会が増えると思うので、これをきっかけにミュ界が潤うといいな〜と期待してます!!

 

最後に1点!

私は今回最後列の100番台で観劇したのですが、見切れが気になりました。私よりも外側にも多くの客席が広がっていたので、みんなかなり見切れていたんじゃないかと思います。

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私の座席からだと、野獣が上手後方に行った時に姿が全く見えずに声だけが聞こえて「どこ?どこ??」ってなったのと、舞台奥の背景は下手の下側少ししか見えないと言ったところでした。それ以外は特に不便はなかったのですが、チケットを取る際にはなるべくセンター寄りを取ることをおすすめします!

1週間で違う関係に『エリザベート』10/21 M 感想&考察

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1週間前に見たときとはまた違う物語を受け取ることになってびっくりです!

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前回の感想↓↓↓

まとめると前回(1014S)は、生命の輝き強強ちゃぴシシィが古川トート閣下🥺も万里生陛下🥺も圧倒的パワーで跳ね除けて、1人自由を求めて戦う物語でした。

対して今回(1021M)は、粘度が高い上に家族にまで干渉してくる最悪のストーカー古川トート閣下や権威主義に絡め取られた夫しゅが陛下を相手に一進一退の攻防を繰り広げ、シシィがたどり着く先は・・・という話でした。

特にシシィとトートのパワーバランスがかなり違っていた印象!大人プリンシパルはフランツが変わっているのでその影響と、純粋にちゃぴの喉の調子による火力の差もあるかもしれないけれど、こんなに違う味付けで出されるとは!!

ほんとに印象とイメージの話しかできなくて自分でも笑ってしまうんですけどしばしお付き合いください😂

愛希シシィと古川トート閣下

14Sのちゃぴシシィの戦いが逆風の中を前に向かって突き進むものでだったとすれば、21Mは逆風に吹き飛ばされないように立ち続けるようなイメージ。攻める戦いか守る戦いかの違いと言えばいいのか。。。展開そのものは同じはずなのに、14Sは圧勝していていて21Mはなかなか戦況が苦しそうでもある。ただ、閣下に惹かれていないというところや戦う覚悟みたいなものは一貫していたように思えるんだけれど、一方的に付きまとわれていることへの悲壮感がましましでより一層、死に心をむしばまれている感じがしました。

戦況がなかなか苦しい分、圧倒的勝利を収めて勝ち誇る「私が踊る時」のシシィが最高に輝いているんですけど、21Mの古川閣下は先々を見据えて綿密に計画を練ってきているかのような嫌なオーラを出してくるのでお互いが勝ちを確信しているバチバチした「私が踊る時」でした。14Sの閣下は全部負け惜しみだったのに一週間でどうしてこんなにも陰湿に笑

そんな古川トート閣下について、14Sは果敢にちゃぴシシィに迫ってはばっさり切り捨てられて悔しがりながらすごすご帰るっていうのを繰り返すものだから、だんだん不憫になってくる、勝ち目があまりにもない閣下でした。ルドやフランツに干渉していったのもシシィが構ってくれないから周りに手を出しているようで猫っぽかった。対して21Mは、ほんとうに話が通じないし、シシィをじわじわと追い詰めるための策略を練るような陰湿さや狡猾さが際立っていて蛇っぽい。閣下はシシィの希死念慮でもあるので、じめじめとした死が重くのしかかってくることで、シシィの苦しみが強調されていたように思う。わんぱくだった閣下が恋しい。

しゅがフランツ陛下

歌がうめぇぇぇぇぇ!さすがだ。柔らかい音なのにずっしりぎっしり届く素敵な歌声。あと踊るしゅがさんを初めて見た。かわいい。

「皇帝の義務」万里生フランツは皇帝モードに入るとスッて一切の感情を捨ててサイボーグ化するんだけど、しゅがフランツは優しさや不甲斐なく思う気持ちがしまいきれていなくてそれがとても辛い。多分、万里生フランツはシシィに出会わなければそれなりにうまくゾフィーの望む皇帝として生きていけたと思うけれど、しゅがフランツはどこかの段階でぽっきり心が折れてしまいそうな感じがする。(そこにない物語を探しがち)

シシィに「見捨てるのね」って言われたときには、今は取り合っても無駄だというように少し呆れ混じりに立ち去ったように見えたんですけど。。。あなたは生まれたときからそうやって生きてきたかもしれないけれど、ちゃぴシシィは違うんですよ!?!?とモンペを発動してしまいましたわ。21Mはちゃぴシシィにかかる苦しみがどんよりしていただけに、見ながら心の中でフランツにたくさん当たってしまった笑

愛希シシィとしゅがフランツ

14S はシシィ→フランツ:一緒に冒険する仲間ができたぜ!って感じでシシィからフランツへの恋とか愛ってものはあんまりないんだろうなってところだったんだけれど、21Mは愛のようなものをかなり感じた。最後通告のシシィが辛そうで辛そうで。21Mのちゃぴシシィは1人で生きていく覚悟を決め切っているわけではなさそうだったから特に。

愛のテーマでシシィがたどり着いた境地

前回の感想でも書いた「キスしなくちゃいけないなら閣下の頭引っ掴んでシシィからガッとキスしてびっくり顔の閣下とかで終わってほしい。」ってのはエリザの話題が出るたびに思うことなんですけど、21Mちょっとこれに近い形がとられていたように思うんですが気のせいですかね?私の願望が見た幻覚ですかね?

さすがに閣下の頭を引っ掴んではいないし、シシィの死を受けて閣下のびっくり顔で終わるのは14Sからそうなんですけど、今回はキスが完全にちゃぴシシィからだった上にキスされた瞬間から閣下が驚きの表情をしていたんですよね。これはギリギリちゃぴシシィが勝手に死んだと判断できるかもしれない!!!!閣下を出し抜いたのかもしれない。そう思うとわくわくが止まりませんでした。

それとは別に、どのようにしてシシィが死を選び取ったかというのはずっと考え続けているところ。今回見ながら気になったのが、愛のテーマのトート閣下は何か印象が違うということでした。衣装もそれまでは黒いのに悪夢以降は白い。21Mに関していえば、粘着質ストーカー感もなくなっている。そのあたりを踏まえると、シシィは「死」の対する見方を変えたのかなと思えた。死の間際までシシィは「死」を自らにつきまとう陰湿なそれこそ最悪のストーカーのように思い、苦しめられていたけれど、彼女が「死」に対する見方を変えたことで、本来の「死」、安らぎを与える純粋な「死」にたどり着くことができたのかもしれない。

見方を変えて幸せを掴むという意味では、「パパみたいに(リプライズ)」の歌詞『気の持ちようで幸せに』という部分にもつながるかも。

 

好みの話をすると14Sが好き。あの日「私だけに」を中心にちゃぴが表現したシシィは私が今後エリザの話をするときには度々口にすることになるんだろうなと思う。それくらいあまりにも心に突き刺さったんですよね。

ただ、14Sはシシィの生涯の前半から中盤にばかりに魅了されて、彼女が手に入れたものや行き着いたところについては考えられなかった。その点、21Mでは別の角度からエリザベートという作品を考えられた気がするのでどっちも見られてよかったな~。

 

最後に、感想と考察に上手く組み込めなかったけれどこれだけは書きたい。

ちゃぴシシィの「お見せしましょうか、まだぁむ?」が最高に好き!

 

エリザベート関連】

 

※(2023/12/20追記)この記事で取り上げている作品を手がけた小池修一郎氏は、元演出助手の方に対するセクシャルハラスメントがあったと告発されています。真偽のほどが明らかになっていない状況ですが、こうした告発があったときにはできるだけ告発者に寄り添いたいと考えているので、同氏が携わった作品にはひとまずこのような注釈を付けることとしました。

恋に落ちないキムとクリス『ミス・サイゴン』富山公演 10/15 M 感想

 

帝劇公演で屋比久キムと海宝クリスが見られなかった+U25チケットの販売があったので富山まで行ってきました〜!初の国内遠征!

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私は前日(10/14)のソワレ 帝劇でエリザを見て、友人と合流。そのまま八重洲から夜行バスに乗り、15日早朝に富山に到着し、マチネのサイゴンを観劇するというハードスケジュールでした。U25チケットの存在を調べ、高速バスの手配をしてくれた友人に感謝です〜

詳しい経緯は友人のブログを

オーバードホールについて

オーバードホールはとにかく音響が良くて、オケもキャストの歌声もものすごい迫力で飛んでくる。しかもオフマイクもかなり聴こえて、幕が開いてすぐのサイゴンの街中の人々の声もしっかり聴こえるから一気に没入できた。帝劇のぼやぼや音響はなんだったんだろう。。。G&Dとサイゴンはキャストのマイク小さすぎてほんとにもったいなかった。

座席は5階のE列(後ろは売り止めっぽかった)。背もたれに背をつけると低身長の私は舞台の下半分消える感じだったので、最後列特権で少し前のめりながら観劇した。背中バッキバキになり、前日からオペラグラスを覗くために酷使した肩の筋肉は1幕半ばでパンパンになりうまく手が上がらなくなった😂 ミュオタ、筋肉、大事。

 

屋比久キム

良い音響で素晴らしい歌声を浴びれる幸せを噛み締めました。歌が信じられないくらい上手い。全ての音が完璧に飛んでくる。屋比久ちゃんを見ると圧倒されて終演後「やびくちゃん・・・」「歌がうますぎる」しか言えなくなる現象に誰か名前をつけてほしい。特に3年後のトゥイとの対峙シーンでの「触らないでー!!」あたりの音圧が凄まじい。

屋比久キムは、感情を派手に爆発させないで心を奥に押し込めている。特にタムと一緒にいるときは自分の気持ちよりも「しっかりしなくてはならない」という思いが強くて、母から息子への愛というよりは、守り抜くべき存在への責任感みたいなものが前に出ている。

8月のサイゴン感想で、キムのクリスへの気持ちは本当に恋なのかについては結構考えていて、昆キムは状況からしてクリスに恋をするしか道がなかった、選べなかった、ただし本人にとっては正真正銘の恋なんだろうなと考えていた。屋比久キムの場合は、クリスへの恋心は完全な錯覚だと思う。辛い記憶に蓋をするように感情を抑えて生きてきたところに、なんだか他の人よりはキムのことを助けるそぶりがある人と出会ってしかもその人とセックスすることになった。抑えていた感情の波がこの辺りの出来事で突然高くなってそれを恋と錯覚したんじゃなかろうか。ちなみに私は海クリスも似た錯覚をしていたと思っている。

「今も信じてるわ」でもクリスの存在や彼の帰りを心の支えにしているというよりは何かを「信じている」ことで自分を奮い立たせているのかもしれないなというのを感じた。クリスがバンコクに来たことを知ったときの「両親に許された」という台詞も印象に残る。屋比久キムを一言で表すなら信念のキムなのかも。

昆キムほど壊れてなくて、クリス抜きの世界でも生きていけるキムです。まだ救える道が残されていると思うので誰か早く保護してください。

海宝クリス

なんとなく海宝さん=怒りってイメージがあって、海クリスは神にぶちぎれてんだろうなと思ってたらもう怒る気力すら残っていないぼろぼろのクリスが出てきたので驚いた。Why God Whyの序盤、呟くように音を切りながら歌っていたのがとても印象的。どうしようもなく無力だし自分がいかに無力なのかも嫌というほどわかっていそう。全てがどうでもよくなってしまっているし、皮肉屋っぽい。感情の波がなくなっているところにキムと出会って久しぶりに色んな感情が湧いたのと一緒に逃げる相手ができた嬉しさとを恋と錯覚したんじゃないかな。

劇中で1番感情を出すのが、サイゴン脱出の場面とバンコクのホテルの場面。ホテルでは、それまで椅子に座って困り果てていたところから突然飛び上がって「アメリカ人ならできると思った〜」の箇所を息も切れ切れになりながら歌うわけだけれど、今まで発してこなかった分の大きな感情が全部飛び出したみたいで衝撃的だった。あれだけの感情を溢れ出させたあとにキムの自殺に立ち会ってしまって、海クリスのただでさえぼろぼろな心はきっと完全に壊れてしまうと思う。立ち直って生き続ける姿が全くイメージできなかった。

あと、全然関係ないんだけど、ドリームランドにてオフマイクでエンジニアに暴言を吐く海クリスがめっちゃ刺さったんだけどなんて言ってたか忘れた。うるせえだっけな黙れだっけな、なんかそんな感じの聞きなれない言葉を発していた。ドリームランド海クリス、観察してると結構面白いんだよな。薬売りに来た人を無関心で追っ払ったり、ほどくのもめんどくさないのか女の子に巻きつかれたまま真顔で歩いてたり。

恋に落ちない屋比久キムと海宝クリス

屋比久キムは感情を抑えていて、海クリスは感情の波がなくなっていった人。2人ともひさしぶりに感情の波がうねったからそれを恋と勘違いしたんだと思う。そして、あくまで2人が求めているのは恋に没入することによるやすらぎであってお互いの存在そのものではない。

そんな2人のLast Night〜では、キスしていないと息ができないのかと思わされた。2番入る前ギリギリまでキス引っ張りすぎて「地球の向こうの〜」の入りに間に合うか心配になるくらい。ほぼ息吸う時間なかったと思うけど、そこは海宝先生なので大丈夫だった🙆‍♀️ 2人のキスには他のペアで見た時のロマンチックさみたいなものはなくて、むしろ病的な雰囲気があってやるせない気持ちにさせられる。

サイゴン陥落後、アメリカに行ったクリスは依存先をエレンに変え、残されたキムはクリスが帰ってくる、タムをアメリカに、そういったことを「信じる」こと自体を心の支えにする。やっぱりお互いにそれなりの愛着はあるんだろうとは思うけれど、こんなにも恋愛感情以外の面からミス・サイゴンという作品を楽しめるなんて〜!!

 

東山エンジニアもよかったな〜!なかなかに切れ者で、人に使われているときには小者感もあり世渡り上手な感じがする。アメドリも若さからくる野心みたいのものが見えて、結構私の中でのエンジニアのイメージど真ん中かも。あと、上野ジョンのブイドイが大迫力だった。

 

初めての国内遠征、いい音響でいい公演が見られて本当に幸せだったし、「新たなミス・サイゴン」を感じられてとっても楽しかったです!!

 

今期サイゴンの感想

ミス・サイゴンは25周年公演の円盤を数年前に見て、エヴァちゃんはじめキャストの方々の歌唱が凄まじいけれど演目としては刺さらんな〜と思っていました。でも今回、ミュージカルの見方みたいなものが少し備わってきた状態で見てみると解釈の余地が沢山あって見れば見るほど楽しくなる演目だと感じることができました。各役にどういう役者を配置するのか、どういう演出でどういう演じ方でキャラクターの新しい面を描き出すのか、これからも色んなプロダクションを見たい演目の1つになりました。

来年イギリスで開幕するサイゴンは、レプリカ版ではなく、エンジニアを女性が演じるそうですね〜気になる!!

 

昆キム小野田クリス駒田エンジニア回

昆キムサンウンクリス伊礼エンジニア回

戦う女 ちゃぴシシィに惚れる『エリザベート』10/14 S 感想

なんとなく見た気になっていたけれど、はじめての生エリザベートでした〜!

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キャスト&キャラクター別感想

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愛希シシィ

ちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴ!!!と思わず叫びたくなる。

ちゃぴシシィ、とにかく素晴らしかったです。

「私だけに」での覚醒がものすごい。もとから結構ワイルドで自分の気持ちは外に真っ直ぐ出していくシシィなんですけど、ここで「私は困難に立ち向かうぞ、打ち勝つぞ」っていう気迫をこれでもかと見せつけてくれる。目から飛び出る気迫や怒りと決意の表情に「戦う女」としてのシシィを見て鳥肌が立ちました。耐えるのではなくて自ら道を切り開くようなエネルギーに溢れているのがかっこよくてかっこよくて。

それでいて「冒険の旅に出る、私だけ」の「私だけ」の部分には寂しさも滲んでいて、戦う覚悟を見せると同時に、待ち受けるであろう孤独に対する意識もあってそこもまたよかったんですよね。おそらく誰かと連れ立って冒険の旅に出たいっていう気持ちもあったのかもしれない。「私だけに」の時点ではもう1人で生きることを決めているけれど、誰かと共に生きるビジョンも彼女にはあった。

「私だけに」で表現したシシィ像ってのもかなりドストライクだったのだけれど、歌唱がその表現に合っていて素晴らしかった。マタハリの時もよかったんだけれど、ファルセットへの切り替えに少し段差があるような感じがしていた。それが今回はなくなっていて、スムーズに高音に移行していたし、ファルセットも音が広がりすぎずに強く硬く届くような音色だったのでちゃぴシシィの気質との相性も抜群だった。ただでさえ、ちゃぴの演じる役ってかっこよくて気迫があって好きなのに歌までこんなに歌えるなんてどんどん大好きになってしまう〜!!!

「私だけに」に加えて、「エリザベート泣かないで」の『嫌よ!逃げないわ 諦めるには早い 生きてさえいれば 自由になれるわ』の部分にもちゃぴシシィの良さが凝縮されていたように思います。1人での戦いは孤独で、死が安息に思えるほどひどく疲れ切ってしまうこともあるけれど、死の誘惑をはねつけるだけの輝かしいまでの活力がやっぱりちゃぴシシィにはあるんです。この場面も迫力がすごくて鳥肌ものでした。

年齢表現も巧みでした。

「パパみたいに」のわんぱくな少女時代と若き皇后時代(普段の声色に近い)ももちろん素敵なんだけれど、「私だけに」を経たのちの深みのある落ち着いたトーンであったり、壮年の月日の経過を感じさせる声色であったりがとても自然。特に壮年はお顔自体が歳をとったかのように見えるくらいで素晴らしかったです。

対トート

トートに惹かれている様子はまるでない。必要以上に怯えてもいない。「最後のダンス」でも、よくわからない存在に迫られているのが怖いって感じで「死」そのものへの恐れはなさそう。「私が踊る時」の『やっと歩き出した私だけの道を 邪魔しないで!』の部分では、閣下に思いっきり怒りをぶつけているし、体操室でもビシーっとものすごい勢いでハウスするからおとなしく退散する閣下かわいそうになるくらいだし。

対フランツ

ちゃぴシシィは現代の一般家庭に生まれたら結婚しないと思う。あの時代あの身分に生まれて、たまたま皇帝に結婚を申し込まれて、それなりにいい人そうだからOKしたんだろうな。フランツへの愛はあんまりなくて、「一緒に人生を楽しく歩む仲間ができたね♪」みたいな意味での結婚。フランツは結婚によって皇族として生きる「苦しみを分かち合いたい」という思いなので全く相容れないですね。そうとわかるとちゃぴシシィは早々にフランツを自分の人生から追い出す。トートもフランツも結局跳ね除け続けるのが私的ちゃぴシシィらぶポイントです。

対ルドルフ

ちゃぴシシィの戦いは彼女が周囲に屈せず進み続ける攻めの戦いなので、そして彼女はすでに孤独な戦いの中に生きることを心に決めてしまっているので、ルドルフを守ることは難しいんだ〜😢 『ママは自分を守る為 あなたを見捨ててしまった この罪は消せない』がとても重く響いた。本当は同じ苦しみを負うもの同士、共に支え合えたらよかったよね。

古川トート閣下

私はトートというキャラクターをいまいちうまくのみこめていないので、なんかようわからんけど面白いなと思いながら見てました。後ほど作品感想のところで、トート閣下という存在については考えるとしてここでは閣下を人間的なものとして見たときの感想を書き残そうと思います。

全体の印象としては、ちゃぴシシィがものすごい勢いで我が道を行く中、果敢に攻め入ってはNOを突き付けられてすごすごと帰る閣下かわいかったな~って感じ。あまりにも脈がなさすぎる。。

愛と死の輪舞では、シシィと目があった瞬間に驚いたような表情をしていて、おそらく古川トート閣下はちゃぴシシィの圧倒的な「生」に惹きつけられたんだろうな。かっかわくわく😳 それなのに結婚式では、シシィの元気な「はい!」で爆速で振られる閣下、困惑しているし悔しがっている。2階の端っこで見たのでここで閣下のクソでか高笑いを耳に直に浴びました、面白かったです😂 閣下って出てくると絶妙に面白いのはなんでなんだろう。長い脚をバーンて見せつけるような姿勢で登場したと思ったら、シシィに突っぱねられて悔しがり、しばし舞台に立ち尽くしてからはけるっていう一連の流れがじわじわ面白くて。「最後のダンス」とかばーっと歌って満足して帰っていくの、TD的にはどうなの?閣下のご乱心どう思ってる?

あと個人的にとても面白かったのがルドルフの墓からぬるーって出てくる閣下🐈‍⬛ あと初っ端の登場シーンのゆっくり上から吊るされて降りてくるところもかなり面白かったんだけれど古川さんの声があまりにも良かったから話に入り込めた。

閣下いじりはこれくらいにして、ラストのキスの後「どうして?」というような困った顔をしていたのが印象的だったな。やっぱり古川トート閣下はちゃぴシシィの「生」の輝きに惚れてたんだろうな。死んでしまったらそれは失われてしまうよ、そりゃそうよ。

古川さんの歌声はどこか悲しかったり寂しかったりするのが魅力だと思っているので、そういった雰囲気をふんだんに纏いながら来るかなと予想していたら、思ったよりマスキュリンでイキイキとした閣下が出てきたのでびっくり。もちろん歌声の魅力はいかされているんですけど。闇広でも『王座に座るんだ〜』の煽り方が父親のようだと感じたりした。


万里生フランツ

やっぱりシシィ大好きよね万里生フランツ☺️

万里生フランツも古川トート閣下と同じくちゃぴシシィの圧倒的「生」に惹かれたはず。そうならば、自分と同じ鳥籠に閉じ込められたらぼろぼろになることをわかってくれよと思っちゃったよ。あんたの惚れたシシィはあんたと一緒に苦しみを耐え忍ぶように変わる女だと思うのか?違うだろうがい!と。その点では、「死なせてなんて言ってくるのは俺の愛したシシィじゃない!」って解釈違い起こす閣下の方がシシィ理解度高いかもしれないですね。かと言って閣下も最後まで「俺だけにー」って歌っちゃうのでなんもわかってないです。

早速フランツへの文句から始めてしまったけれど、フランツはフランツで辛いよなというところも多い。シシィに「私を見捨てるのね」って言われたときの顔が辛すぎた。しわしわピカチュウみたいになってた。「夜のボート」の最後もそんな感じ。ずっと皇帝として自分の自由など望めない中で生きてきたフランツが唯一欲したのがシシィなのに、どう足掻いても分かり合えないんだもんね。フランツからシシィへの愛が強ければ強いほど悲しい話になる。

そして久しぶりのロイヤルな万里生はやっぱりいい!いつぶりだろう?フェルセンぶり?ビブラートのかかり方優しくてフランツのいい人さが溢れている。

結婚式でTDと割と楽しそうな表情で踊ってるのかわいい。

上山ルキーニ

前の回かな?に喉を痛めて降板されていたので不安でした。ルキって音高いし、セリフ量も多いからどうか無理しないでほしい・・・。私が見た回は高音パートは下げつつ、中低音はおおむねばっちりって感じ。それにしてもこれだけ長い公演期間でルキーニWキャストはきついと思うよ。せめてトリプルは用意しておいた方がいいと思う。

私がこれまで見たり聴いたりしてきたルキは高音をひょいひょい出してくる狂気系が多かったのだけれど、上山ルキは高音を抑えたことで「普通の人」感が強いルキに仕上がっていたので新鮮だった。皇室にも民衆の動きにも詳しいとはいえあくまで一般の人で社会を動かす力は持たなかったはずが、皇后暗殺で一発逆転歴史に名を残したという印象。閣下とのつながりも弱め。

甲斐ルドルフ

3月にN2Nで大暴れしているのを見たので、こんなに強そうなルドを閣下ズはどうやって死に導くんだ?できるのか?と思っていたのだが、精神力弱弱のルドルフが出てきたのでこれまたびっくり。しっかりした肉体と頼りない精神のアンバランスさが皇太子という肩書きと何もできない現状に重なってとてもよかった。

闇広は思ったよりアレンジしてこなかったけれど、その後の場面でどっか音を上げていた気がする。高音綺麗だからどんどん上げてほしい。

涼風ゾフィー

音域ドンピシャでめちゃくちゃうまい!!!

これまでゾフィーの存在を割と悪役のように捉えてきた部分もあるのだけれど、今回の観劇で見方がだいぶ変わりました。女性が宮廷であのような権力を持つということはそこに至るまでに数々の戦いがあったはずで、得た力を他の女性のために、シシィを助ける方向につかえたらよかったのだけれどそうはならなかった。ゾフィーは宮廷で男性として生きるしかなかったというのが辛いなと思いました。

 

作品感想

トート閣下について

キャスト感想のところでも書いたように私はトート閣下がなんなのかいまいちわかっていないところがあって、今回はそれをちゃんと整理しておきたいなと思います。

① 人格

今作をルキーニの頭の中で上演されている劇として見る場合、彼にとってトート閣下は登場人物の1人。この見方はキャスト感想で書いた。

② シシィの希死念慮

ちゃぴシシィの生命力がすごいので、人格としてのトートに気を取られるけれど、彼女が孤独を抱えると嬉々としてやってくるというところを見ると希死念慮に取り憑かれていたという見方もできる。あんなに生命力があっても、彼女の戦いはあまりに孤独で常にどこかで死にたいと思っていたと考えるとあまりにも辛い。それは「いっそ狂ってしまえたら」と思うわ。

ただ、古川トート閣下はシシィの死に対して感情を出しているのでシシィの希死念慮ではないようにも思える。

③ 死そのもの

トート閣下はシシィの他、ハプスブルクの人間に干渉してくるので彼らの希死念慮が同じ形を取って現れているとも言えるし、シシィの死後も舞台に残ることを考えると死そのものと見られるはず。

この3つを混ぜながら見るの案外難しい。

国内外問わず各トート役者たちこの辺のことをどう考えて演じているのかとても気になる。

愛のテーマについて

エリザベートを初めて見た時からずっと気になっているのが、ラストの座りが悪いな〜というところ。

シシィは死の直前に華々しい何かを成し遂げるわけではないし、自殺したわけでもないし、暗殺によって突然命を奪われた。自分の意志と関係ないところで死を迎えるに至るのがそこまでに描かれたシシィ像と噛み合わない感じがする。ただそこは史実なので仕方がない。刺されたあとに、生にしがみつくのではなく死を自ら選び取ったと考えよう。

もっと気になるのがトート閣下とのキスなんだよな。「私だけに〜」と「俺だけに〜」を重ねることでお互い何も分かり合っていないのが強調されてはいるけれども、ちゃぴシシィは閣下とキスしないやろ!って思うのは私だけか。ただここもどうしようもないっちゃどうしようもない。死がトート閣下とのキスによって訪れるならキスしないわけにいかないもんなと思いつつ、でもゾフィーはキスしてなくない?とか思ったり。シシィもキスしないでひとりでに死ぬか、キスしなくちゃいけないなら閣下の頭引っ掴んでシシィからガッとキスしてびっくり顔の閣下とかで終わってほしい。

【10/24 追記】ちなみにこの願望は次見た時にちょっと叶っていた🥺

 

今回の公演はちゃぴシシィが強いのでエリザベートの物語としてしっかり筋が通っていたのがよかったな〜!好みだった!

それはそうと、色んな演出、色んな衣装、色んなキャストで見たいよっていう思いも大きい。女性が演出するエリザベートを見てみたいよ〜!!!トート閣下も日本は耽美系に寄せていてそれもまたいいとは思うがロックスターな閣下とかも見たいですよね!?私は伊礼トート待ってますから!!

 

と、書きながら過去のキャスト見ようと思ってエリザの英語版wiki見たらトート閣下の見た目について、His appearance is modeled on the poet Heinrich Heine who was fascinated by Elisabeth, and the rock singer David Bowie.と記載があった。ボウイ風閣下とそれに合わせた美術のエリザもやってよ!色んなバージョン見せてよ!

 

P.S.

来月、WOWOWシェーンブルン宮殿でのエリザコンが放送されます!!マーク・ザイベルト閣下がテレビで見られる😍💕💕💕 ザイベルト来日してくれないかな〜〜〜。

 

エリザベート関連】

 

※(2023/12/20追記)この記事で取り上げている作品を手がけた小池修一郎氏は、元演出助手の方に対するセクシャルハラスメントがあったと告発されています。真偽のほどが明らかになっていない状況ですが、こうした告発があったときにはできるだけ告発者に寄り添いたいと考えているので、同氏が携わった作品にはひとまずこのような注釈を付けることとしました。

あっきーのフランキーに間に合えてよかった『ジャージー・ボーイズ』10/8 S 感想

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今年5月に映画版を見て「あ~これは劇場で見てこそ魅力がわかる作品なんだろうな」と感じたのだけれど、まさにその通りだった。

私が思うに今作の山場は、フランキーがトミーの借金を全て背負い込むところ。誰にも理解できなくてもそれがジャージー流だと。成功したグループの華々しさではなくジャージー出身の若者たちの人生や関係性にフィーチャーする分、お話自体は面白いけれど結構こじんまりしている。(メンバー間の諍いが歌に乗ることもあまりないので)

そこに楽しいライブシーンが挿入されることで楽しいショーに仕上がるんですね~!!

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キャスト感想

あっきーさんのフランキー・ヴァリに間に合えて良かった😭 ヴォルフガングには(M!とロクモ両方とも)間に合わなかったのでね。世代的にもミュオタになった時期的にも。まだ観劇経験は少ないながら、役と演じる俳優さんが互いを高め合うようなハマり役って存在すると思っていて、あっきーさんとフランキーはまさにそれだと感じられました。

歌のうまさはもちろんなんですけど、ピュアさと矜持みたいのものがあまりにも役と合っているように思えて、見ていて本当に楽しかったです。あと驚いたのが、ダンスのキレがはんぱないですね!?!?あっきー=歌ってイメージが強いのでここまで動けるって知らなかったです!!!それから序盤のピンクのシャツ着てるあたりの時代のフランキーかわいすぎました、とういうか全編にかわいいが溢れている。

そうそう、フランケンの円盤を見ているから忘れがちだけれど、あっきーさんが出ている演目を生で見るのは初めてだったんですよね。コンサートでは見たけれど。これからもお世話になります。

藤岡トミーもあまりにもハマっていて😂 トミーって普通に生きていたら絶対に出会わないタイプの人間で、日本で生きる私からしたらなおさら現実味のない存在なんだけれど、藤岡さんは自然に横暴でどうしようもない、でもなぜか関わる人間には恵まれている不思議なトミーを自然に演じていて「トミーがいた」。トミーがフランキーの顎をペシってして驚いたすきに軽くビンタするシーン、フランキーに何しとんのじゃわれ💢ってモンペになってしまうんですけど、トミーのああいうフランキーは弟分だから何をしてもいいみたいな考えってフランキーがトミーの借金を背負いこむのと根源にあるものは同じなんだろうな。あっきーさんと藤岡さんのハモリ素晴らしかったです!流石だ!!!

とんちゃんボブ、というかとんちゃん、めちゃくちゃ歌が上手くなってらっしゃる!!!最後に見たのマタハリだからな〜もう1年以上前だもんな。December 1963のメインボーカルがボブって知らなかったのでこんなに歌ってくれるとも思ってなかったし、素敵だったな〜。

大山ニックは愛され力が高めなので、ニック自身が自分をどう思っていようとも3人にとって必要な存在だっただろうよと退場時しみじみとしてしまったよ。。。

 

The Four SeasonsとThe Beatles

劇中で、自分たちのファンは「髪に花を刺したヒッピーではなく、戦場に送られる兵士たちや目の下にくまを作りながらバーガーをひっくり返す彼らの恋人たちだった」というような台詞があって、ここのところがおしゃれでとても好き。これだけで、同時代にビートルズが活躍していたこと、ビートルズのファンはヒッピーだったこと、ビートルズファンのヒッピーたちは反戦運動ができるくらいには生活に余裕のある人でフォー・シーズンズのファンたちはそうではなかったこと、たくさんの情報が詰まっている。私はヒッピーが好きなので例の台詞には少しどっきりする部分もありました笑

冒頭で彼らジャージー出身のお金のない少年たちが「抜け出す道は3つ。軍隊へ行く、マフィアに入る、あるいは、スターになる」とも語られていて彼らのような境遇では軍隊に行くというのが選択肢にあったことと彼らのファン層に軍隊へ行った人々が多いということが重なってなるほどなと思いました。

また、ニックは舞台を去るときに「グループに4人いて、自分がリンゴ・スターだったら?子どもたちと一緒に過ごした方がいい」とも述べていてやたらビートルズに突っかかるな〜という印象。というかリンゴとばっちりすぎる😂

Wikipedia読んだだけだけれど、フォー・シーズンズが所属していたヴィージェイ・レコードはアメリカ国内でのビートルスの初期シングルをリリースしていて、それがあまりにも売れすぎて生産が追いつかなくなり、それによって資金繰りが悪くなったとのこと。この騒動もあってヴィージェイからフォー・シーズンズへの印税も滞り、彼らはレコード会社を移籍したそう。会社を移籍してもフォー・シーズンズの人気に影響はなく、ヒットチャートをビートルズが独占する中で1位を取ることができたのはフォー・シーズンズだけというくらい人気があったみたいです。

このような経緯もあってビートルズとは関わりが深く、またファン層の違いや自分たちの境遇も相まって彼らのことが気になる存在だったんでしょうね。 クリスやジョンもフォー・シーズンズを聴いていたのでしょうか。

 

劇場で見るべき演目

今作は、地に足ついた堅実なストーリーにライブシーンを挿入することでショーアップする作品だから生でライブを楽しめる環境で見るのが1番だろうなというのと、もう一点、メンバーが客席に語りかけてくるスタイルで進行するところも、劇場で、そして欲をいえばもう少し小さい箱(それこそクリエくらいのサイズ)で見たいなと思わされる要因としてある。

私は第四の壁を破る手法が好きなのだけれど、やっぱりスクリーンや画面越しに語りかけられるよりも劇場での方が直接語りかけられる感覚、当事者性が強くなってわくわくします。そんなわけで「わーめっちゃ話しかけてくれる😆」って楽しく見てはいた。

そう楽しんではいたが、今回日生劇場なのに音響が微妙な気がする。特に冒頭のトミーの語りの部分が半分くらいしか聴き取れなかったので、映画で予習してなかったら着いていけてたかわからないな。

最後に、またまた映画との比較になってしまうのだけれど、ラストのロックの殿堂シーン。映画版だと俳優さんたちが老けメイクで登場してぎこちない会話を交わすってのがものすごくいいので、舞台では案外サラッとしていたのが意外でした。舞台は舞台で「あの頃に戻ったみたいだ」っていう台詞もあったし、彼らの精神の姿でのパフォーマンスというふうに受け取ることができてこちらもまた素敵な演出だな〜と感動していました😌

 

映画のリンクも貼っとこう!

ジャージー・ボーイズ(字幕版)

ジャージー・ボーイズ(字幕版)

  • ジョン・ロイド・ヤング
Amazon

 

カテコ

めちゃくちゃ楽しかった〜✨ なにも考えずにチケットを取ったけれど本初日だったこともあり会場もほどよくあったまっていて素敵な空間でした。メドレーでは演者さんたちから拍手の指示が入るので今回は頑張りました💪 December 1963の2拍入る手拍子に苦戦したり、あっきーさんに「皆さんご一緒に」と言われたのでBig Girls Don't Cryを踊ったり☺️ 幸せな気持ちになりました〜

 

あっきーさんのご挨拶はムラタさんが早速文字に起こしてくださっていた!ムラタさん流石すぎます!!

 

 

分かり合えない現実を描く『SERI 〜ひとつのいのち』10/6 S 感想

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conSept作品の観劇は、2021年版『いつか』『GRAY』に続いて3作目ですが、どれも他の作品、特にグランドミュージカルの世界では見落とされたり、捨て置かれたりしてきた現実を描き出しているところが魅力のひとつだと感じます。今作は、無眼球症と鼻の骨の大きな歪みを持って生まれてきた千璃とどのように向き合うか葛藤する両親、そして千璃の出生に関わる医療裁判を扱ったミュージカルです。


千璃の母 美香は、キャビンアテンダントとして活躍したのちニューヨークへ留学。自身の会社を立ち上げる目前で、友人たちからも「パーフェクト」と呼ばれるような存在として描かれ、父 丈晴も地方出身ながらニューヨークの会計事務所で働いており、成功者のように見える。そんな2人の元に千璃は生まれます。2人は千璃の障がいに驚くと同時に、医師が何の説明もせず逃げるようにその場から立ち去ったことに困惑。また、事前のエコー検査で医師からは「異常なし」と言われていたものの写真を見せてはもらっていないことに対して疑惑を抱きます。

 

You Don't Know -分かりあうことはできない両親

序盤では、障がいを持つ千璃の未来に絶望する美香と前を向いて進もうとする丈晴が描かれます。丈晴のある種脳天気な気質が美香を励ましているような部分もあり、若干、観客が丈晴に共感しやすいように話が進みます。そして2人の育児生活が描かれるのですがここが面白い。

千璃にミルクをあげようとするが撥ねつけられて苦労する美香、帰宅する丈晴、ご飯の準備中に千璃を抱く丈晴、配膳をして千璃を再び抱く美香とご飯を食べる丈晴、就寝する丈晴、千璃を寝かしつけようとするがベッドに寝かせようとすると泣き始めるため再び抱きかかえる美香、日の出、配膳をして千璃を再び抱く美香とご飯を食べる丈晴、出社する丈晴という一連の流れがループする様子が描かれます。また、流れを繰り返すうちに丈晴が千璃や美香へ気を配る時間は短くなり、同時に美香は活力を失っていきます。

このシーンでは「育児において母親にばかりかかる負担」を描き出しています。赤ちゃんというコントロールが効かない生命とともに、閉塞感のある家の中で永遠に続くかのような毎日を繰り返す、この苦しみは子の障がいの有無に関わらず、多くの母親が強いられてきた普遍的な苦しみであるはずです。

また、丈晴は「ずっと家にいるから余計に辛いんだ」と週末にはベビーカーに千璃を乗せて3人で散歩に行くことを提案します。しかし、他人の視線が気になる美香は、その反対に全く気にしないように見える丈晴に「美香が気にしすぎなんだよ」と言われて怒りを露わにします。週末ちょっと散歩に行くだけのあなたには何もわからないと。

丈晴の前向きな姿勢や倫理的に正しいように思われる発言が、千璃と2人きりの毎日を過ごし、自分の仕事に手をつけることもできない状況の美香を傷つける。今作の重要な台詞として「美香のせいじゃないよ」という言葉があります。これは千璃の障がいを知り泣き崩れる美香に向かって冒頭で丈晴がかけた言葉です。美香は物語が進んでいったのちにこの言葉を振り返り、「あの瞬間に私は当事者、丈ちゃんは傍観者になった」と発言します。障がいは「美香のせいじゃない」という言葉は、優しい響きを持つように思えます。しかし、その裏には「障がいは自分のせいであるはずはない」それならば「母親のせいであるのかもしれない」という思考があったことを示しています。(「美香のせい〜」という台詞は冒頭で出てきたときから違和感を覚えていたので、中盤での伏線回収には沸きました!!!)

話があっちこっちに広がりましたが、今作では育児における母親ばかりが強いられる閉塞的な苦痛や父親の当事者性の薄さという普遍的な題材を描き出しています。分かり合えるわけのない相手からの歩み寄りに対する怒りという意味では「Next to Normal」でダイアナが歌うYou Don't Knowにも近い場面があったりも。ただ今作の場合は、丈晴もYou Don't KnowするのでYou Don't Know合戦になります。

両親に限らず、美香と彼女に訴えられる医師の分かり合えなさというのも本作ではフィーチャーされていて、「分かり合えない現実」というのが1つ今作のメインテーマになっているのだと思います。

 

手術を受けるべきか受けざるべきかー実話だからこその展開

美香はノイローゼ状態になり、千璃とともに飛び降り自殺を図ろうとします。しかし、町の音に感化されて千璃が初めて笑い声を上げたことをきっかけに「何があってもこの子を守り抜く。彼女が幸せになるためなら何だってする」と決意を固めます。

当初、美香は自分が千璃の障がいを受け入れられないがために義眼の挿入と鼻の整形を決行しようとしますが、義眼を入れるためのスペースを作る手術はうまくいきません。対して今度は「千璃が幸せになるために」鼻の手術を強行します。美香の考えは、心無い世界に目が見えず、言葉も話せないまま晒されることになる千璃を守るためには、少しでも人にかわいいと思ってもらえることが重要なんだというものです。手術について、丈晴は大規模な開頭手術になることから脳への損傷などのリスクがあるため行うべきではないと主張し続けますが、傍観者であるという指摘を受けたことや美香の「守りたいからだ」という考えに押される形で手術を決断します。手術は成功しますが、縫合した箇所が一時的にとはいえ腫れ上がった娘の姿を見て2人は「何をしてしまったんだ」と後悔することになります。しかし、2人は想定していなかったのだが、鼻の形成により脳に酸素が行き届きやすくなったことで千璃が言葉を話せるようになるという大きな効果を得ることとなるのでした。

この手術をめぐる展開は、実話をベースにしているからこそのものであると感じます。

私がこれまで触れてきた作品を参考にするならば「おそらく千璃は千璃のままでいい、リスクを負ってまで手術を受けなくていいし、私たちで彼女を守っていこう」という展開が王道であると思われます。対して今作の展開では、手術を結構したことへの深い後悔と手術により千璃が言葉を話すようになったことへの喜びが見られます。手術を受けることによる闇と光を描くことでストーリーの展開的にはある種の矛盾のようになる。それが「現実である」ことを突きつけてくるような展開になっていて興味深かったです。

 

最後に、各社が国産ミュージカルに力を入れる中がなかなかうまく行っていない要因として「ミュージカル曲」を作ることができる作曲家が少ないという問題があるのかなと素人ながらに思っているのですが、桑原まこさんの音楽はいつもミュージカルになっていて素敵だなと思います。特に今作はリプライズのタイミングが私の感情の波とハマってすごく楽しく観劇できました。

 

【思い出し追記】

舞台と客席すべて電気が落とされた状態で千璃生きている世界の一部を体験できるような演出も面白かったです。

 

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