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戦う女 ちゃぴシシィに惚れる『エリザベート』10/14 S 感想

なんとなく見た気になっていたけれど、はじめての生エリザベートでした〜!

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キャスト&キャラクター別感想

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愛希シシィ

ちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴ!!!と思わず叫びたくなる。

ちゃぴシシィ、とにかく素晴らしかったです。

「私だけに」での覚醒がものすごい。もとから結構ワイルドで自分の気持ちは外に真っ直ぐ出していくシシィなんですけど、ここで「私は困難に立ち向かうぞ、打ち勝つぞ」っていう気迫をこれでもかと見せつけてくれる。目から飛び出る気迫や怒りと決意の表情に「戦う女」としてのシシィを見て鳥肌が立ちました。耐えるのではなくて自ら道を切り開くようなエネルギーに溢れているのがかっこよくてかっこよくて。

それでいて「冒険の旅に出る、私だけ」の「私だけ」の部分には寂しさも滲んでいて、戦う覚悟を見せると同時に、待ち受けるであろう孤独に対する意識もあってそこもまたよかったんですよね。おそらく誰かと連れ立って冒険の旅に出たいっていう気持ちもあったのかもしれない。「私だけに」の時点ではもう1人で生きることを決めているけれど、誰かと共に生きるビジョンも彼女にはあった。

「私だけに」で表現したシシィ像ってのもかなりドストライクだったのだけれど、歌唱がその表現に合っていて素晴らしかった。マタハリの時もよかったんだけれど、ファルセットへの切り替えに少し段差があるような感じがしていた。それが今回はなくなっていて、スムーズに高音に移行していたし、ファルセットも音が広がりすぎずに強く硬く届くような音色だったのでちゃぴシシィの気質との相性も抜群だった。ただでさえ、ちゃぴの演じる役ってかっこよくて気迫があって好きなのに歌までこんなに歌えるなんてどんどん大好きになってしまう〜!!!

「私だけに」に加えて、「エリザベート泣かないで」の『嫌よ!逃げないわ 諦めるには早い 生きてさえいれば 自由になれるわ』の部分にもちゃぴシシィの良さが凝縮されていたように思います。1人での戦いは孤独で、死が安息に思えるほどひどく疲れ切ってしまうこともあるけれど、死の誘惑をはねつけるだけの輝かしいまでの活力がやっぱりちゃぴシシィにはあるんです。この場面も迫力がすごくて鳥肌ものでした。

年齢表現も巧みでした。

「パパみたいに」のわんぱくな少女時代と若き皇后時代(普段の声色に近い)ももちろん素敵なんだけれど、「私だけに」を経たのちの深みのある落ち着いたトーンであったり、壮年の月日の経過を感じさせる声色であったりがとても自然。特に壮年はお顔自体が歳をとったかのように見えるくらいで素晴らしかったです。

対トート

トートに惹かれている様子はまるでない。必要以上に怯えてもいない。「最後のダンス」でも、よくわからない存在に迫られているのが怖いって感じで「死」そのものへの恐れはなさそう。「私が踊る時」の『やっと歩き出した私だけの道を 邪魔しないで!』の部分では、閣下に思いっきり怒りをぶつけているし、体操室でもビシーっとものすごい勢いでハウスするからおとなしく退散する閣下かわいそうになるくらいだし。

対フランツ

ちゃぴシシィは現代の一般家庭に生まれたら結婚しないと思う。あの時代あの身分に生まれて、たまたま皇帝に結婚を申し込まれて、それなりにいい人そうだからOKしたんだろうな。フランツへの愛はあんまりなくて、「一緒に人生を楽しく歩む仲間ができたね♪」みたいな意味での結婚。フランツは結婚によって皇族として生きる「苦しみを分かち合いたい」という思いなので全く相容れないですね。そうとわかるとちゃぴシシィは早々にフランツを自分の人生から追い出す。トートもフランツも結局跳ね除け続けるのが私的ちゃぴシシィらぶポイントです。

対ルドルフ

ちゃぴシシィの戦いは彼女が周囲に屈せず進み続ける攻めの戦いなので、そして彼女はすでに孤独な戦いの中に生きることを心に決めてしまっているので、ルドルフを守ることは難しいんだ〜😢 『ママは自分を守る為 あなたを見捨ててしまった この罪は消せない』がとても重く響いた。本当は同じ苦しみを負うもの同士、共に支え合えたらよかったよね。

古川トート閣下

私はトートというキャラクターをいまいちうまくのみこめていないので、なんかようわからんけど面白いなと思いながら見てました。後ほど作品感想のところで、トート閣下という存在については考えるとしてここでは閣下を人間的なものとして見たときの感想を書き残そうと思います。

全体の印象としては、ちゃぴシシィがものすごい勢いで我が道を行く中、果敢に攻め入ってはNOを突き付けられてすごすごと帰る閣下かわいかったな~って感じ。あまりにも脈がなさすぎる。。

愛と死の輪舞では、シシィと目があった瞬間に驚いたような表情をしていて、おそらく古川トート閣下はちゃぴシシィの圧倒的な「生」に惹きつけられたんだろうな。かっかわくわく😳 それなのに結婚式では、シシィの元気な「はい!」で爆速で振られる閣下、困惑しているし悔しがっている。2階の端っこで見たのでここで閣下のクソでか高笑いを耳に直に浴びました、面白かったです😂 閣下って出てくると絶妙に面白いのはなんでなんだろう。長い脚をバーンて見せつけるような姿勢で登場したと思ったら、シシィに突っぱねられて悔しがり、しばし舞台に立ち尽くしてからはけるっていう一連の流れがじわじわ面白くて。「最後のダンス」とかばーっと歌って満足して帰っていくの、TD的にはどうなの?閣下のご乱心どう思ってる?

あと個人的にとても面白かったのがルドルフの墓からぬるーって出てくる閣下🐈‍⬛ あと初っ端の登場シーンのゆっくり上から吊るされて降りてくるところもかなり面白かったんだけれど古川さんの声があまりにも良かったから話に入り込めた。

閣下いじりはこれくらいにして、ラストのキスの後「どうして?」というような困った顔をしていたのが印象的だったな。やっぱり古川トート閣下はちゃぴシシィの「生」の輝きに惚れてたんだろうな。死んでしまったらそれは失われてしまうよ、そりゃそうよ。

古川さんの歌声はどこか悲しかったり寂しかったりするのが魅力だと思っているので、そういった雰囲気をふんだんに纏いながら来るかなと予想していたら、思ったよりマスキュリンでイキイキとした閣下が出てきたのでびっくり。もちろん歌声の魅力はいかされているんですけど。闇広でも『王座に座るんだ〜』の煽り方が父親のようだと感じたりした。


万里生フランツ

やっぱりシシィ大好きよね万里生フランツ☺️

万里生フランツも古川トート閣下と同じくちゃぴシシィの圧倒的「生」に惹かれたはず。そうならば、自分と同じ鳥籠に閉じ込められたらぼろぼろになることをわかってくれよと思っちゃったよ。あんたの惚れたシシィはあんたと一緒に苦しみを耐え忍ぶように変わる女だと思うのか?違うだろうがい!と。その点では、「死なせてなんて言ってくるのは俺の愛したシシィじゃない!」って解釈違い起こす閣下の方がシシィ理解度高いかもしれないですね。かと言って閣下も最後まで「俺だけにー」って歌っちゃうのでなんもわかってないです。

早速フランツへの文句から始めてしまったけれど、フランツはフランツで辛いよなというところも多い。シシィに「私を見捨てるのね」って言われたときの顔が辛すぎた。しわしわピカチュウみたいになってた。「夜のボート」の最後もそんな感じ。ずっと皇帝として自分の自由など望めない中で生きてきたフランツが唯一欲したのがシシィなのに、どう足掻いても分かり合えないんだもんね。フランツからシシィへの愛が強ければ強いほど悲しい話になる。

そして久しぶりのロイヤルな万里生はやっぱりいい!いつぶりだろう?フェルセンぶり?ビブラートのかかり方優しくてフランツのいい人さが溢れている。

結婚式でTDと割と楽しそうな表情で踊ってるのかわいい。

上山ルキーニ

前の回かな?に喉を痛めて降板されていたので不安でした。ルキって音高いし、セリフ量も多いからどうか無理しないでほしい・・・。私が見た回は高音パートは下げつつ、中低音はおおむねばっちりって感じ。それにしてもこれだけ長い公演期間でルキーニWキャストはきついと思うよ。せめてトリプルは用意しておいた方がいいと思う。

私がこれまで見たり聴いたりしてきたルキは高音をひょいひょい出してくる狂気系が多かったのだけれど、上山ルキは高音を抑えたことで「普通の人」感が強いルキに仕上がっていたので新鮮だった。皇室にも民衆の動きにも詳しいとはいえあくまで一般の人で社会を動かす力は持たなかったはずが、皇后暗殺で一発逆転歴史に名を残したという印象。閣下とのつながりも弱め。

甲斐ルドルフ

3月にN2Nで大暴れしているのを見たので、こんなに強そうなルドを閣下ズはどうやって死に導くんだ?できるのか?と思っていたのだが、精神力弱弱のルドルフが出てきたのでこれまたびっくり。しっかりした肉体と頼りない精神のアンバランスさが皇太子という肩書きと何もできない現状に重なってとてもよかった。

闇広は思ったよりアレンジしてこなかったけれど、その後の場面でどっか音を上げていた気がする。高音綺麗だからどんどん上げてほしい。

涼風ゾフィー

音域ドンピシャでめちゃくちゃうまい!!!

これまでゾフィーの存在を割と悪役のように捉えてきた部分もあるのだけれど、今回の観劇で見方がだいぶ変わりました。女性が宮廷であのような権力を持つということはそこに至るまでに数々の戦いがあったはずで、得た力を他の女性のために、シシィを助ける方向につかえたらよかったのだけれどそうはならなかった。ゾフィーは宮廷で男性として生きるしかなかったというのが辛いなと思いました。

 

作品感想

トート閣下について

キャスト感想のところでも書いたように私はトート閣下がなんなのかいまいちわかっていないところがあって、今回はそれをちゃんと整理しておきたいなと思います。

① 人格

今作をルキーニの頭の中で上演されている劇として見る場合、彼にとってトート閣下は登場人物の1人。この見方はキャスト感想で書いた。

② シシィの希死念慮

ちゃぴシシィの生命力がすごいので、人格としてのトートに気を取られるけれど、彼女が孤独を抱えると嬉々としてやってくるというところを見ると希死念慮に取り憑かれていたという見方もできる。あんなに生命力があっても、彼女の戦いはあまりに孤独で常にどこかで死にたいと思っていたと考えるとあまりにも辛い。それは「いっそ狂ってしまえたら」と思うわ。

ただ、古川トート閣下はシシィの死に対して感情を出しているのでシシィの希死念慮ではないようにも思える。

③ 死そのもの

トート閣下はシシィの他、ハプスブルクの人間に干渉してくるので彼らの希死念慮が同じ形を取って現れているとも言えるし、シシィの死後も舞台に残ることを考えると死そのものと見られるはず。

この3つを混ぜながら見るの案外難しい。

国内外問わず各トート役者たちこの辺のことをどう考えて演じているのかとても気になる。

愛のテーマについて

エリザベートを初めて見た時からずっと気になっているのが、ラストの座りが悪いな〜というところ。

シシィは死の直前に華々しい何かを成し遂げるわけではないし、自殺したわけでもないし、暗殺によって突然命を奪われた。自分の意志と関係ないところで死を迎えるに至るのがそこまでに描かれたシシィ像と噛み合わない感じがする。ただそこは史実なので仕方がない。刺されたあとに、生にしがみつくのではなく死を自ら選び取ったと考えよう。

もっと気になるのがトート閣下とのキスなんだよな。「私だけに〜」と「俺だけに〜」を重ねることでお互い何も分かり合っていないのが強調されてはいるけれども、ちゃぴシシィは閣下とキスしないやろ!って思うのは私だけか。ただここもどうしようもないっちゃどうしようもない。死がトート閣下とのキスによって訪れるならキスしないわけにいかないもんなと思いつつ、でもゾフィーはキスしてなくない?とか思ったり。シシィもキスしないでひとりでに死ぬか、キスしなくちゃいけないなら閣下の頭引っ掴んでシシィからガッとキスしてびっくり顔の閣下とかで終わってほしい。

【10/24 追記】ちなみにこの願望は次見た時にちょっと叶っていた🥺

 

今回の公演はちゃぴシシィが強いのでエリザベートの物語としてしっかり筋が通っていたのがよかったな〜!好みだった!

それはそうと、色んな演出、色んな衣装、色んなキャストで見たいよっていう思いも大きい。女性が演出するエリザベートを見てみたいよ〜!!!トート閣下も日本は耽美系に寄せていてそれもまたいいとは思うがロックスターな閣下とかも見たいですよね!?私は伊礼トート待ってますから!!

 

と、書きながら過去のキャスト見ようと思ってエリザの英語版wiki見たらトート閣下の見た目について、His appearance is modeled on the poet Heinrich Heine who was fascinated by Elisabeth, and the rock singer David Bowie.と記載があった。ボウイ風閣下とそれに合わせた美術のエリザもやってよ!色んなバージョン見せてよ!

 

P.S.

来月、WOWOWシェーンブルン宮殿でのエリザコンが放送されます!!マーク・ザイベルト閣下がテレビで見られる😍💕💕💕 ザイベルト来日してくれないかな〜〜〜。

 

エリザベート関連】

 

※(2023/12/20追記)この記事で取り上げている作品を手がけた小池修一郎氏は、元演出助手の方に対するセクシャルハラスメントがあったと告発されています。真偽のほどが明らかになっていない状況ですが、こうした告発があったときにはできるだけ告発者に寄り添いたいと考えているので、同氏が携わった作品にはひとまずこのような注釈を付けることとしました。