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健全すぎたかもしれない『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』2/12 S プレビュー公演 感想

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昨年秋に韓国観光公社の無料配信があったけれど旅行中で見られなかったのと、劇場自体にちょっと思い入れがあったのと、あともう1個ご縁があって見て参りました。

作品・公演概要

윌리엄과 윌리엄의 윌리엄들

作曲: 남궁유진(ナムグン・ユジン)
脚本・作詞: 김연미(キム・ヨンミ)
製作: The Best Plays Inc./演劇列伝
初演: 2023年 ソウル

 

ミュージカル『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』プレビュー公演 ※日本初演

劇場: パルテノン多摩 大ホール
演出: 元吉庸泰
上演台本・訳詞: 板垣恭一
企画・製作: サンライズプロデュース/WOWOW

 

キャスト

大内リオン
岡幸二郎
駒田一

今作は劇中劇的な構造をとるので明確に役名はありませんが、大内さんがヘンリー、岡さんがミスターH、駒田さんがサミュエルを演じています。

 

作品感想

今作では想像力が豊かすぎて学校には馴染めず、父親のサミュエルからも「ただ息をしていればいい」と言われてしまうほど期待されていないヘンリーが父親を振り向かせるために豊かな想像力と得意の筆跡模写で偽のシェイクスピアの遺品や作品を作り、嘘に嘘を重ねていくという話。ヘンリーはシェイクスピアの遺品をサミュエルに譲渡する紳士としてミスターHという存在を創作し、ミスターHとの対話を通して新たな偽シェイクスピア作品を生み出していきます。


私は悪意のないキャラクターが嘘を重ねていく展開が苦手なので、いまいち乗り切れなかったですね。。Dear Evan Hansenとかもそうだけれどこればかりはもう食べ物の好き嫌いみたいなものかもしれません。ただ題材自体に惹きつけられるのは間違いないので、もうちょっと物語に盛り上がりがあると好きだったかもな〜と思いました。


今作の主なテーマはサミュエル&ヘンリー Wiliamの父子関係、ヘンリーと架空の人物ミスターHの共犯関係、真偽についての議論といったところだと思います。


父子関係の話になるといつも思い出すのが韓ミュの『ルードヴィヒ』で、あのどろどろに煮詰まった連鎖する負の父子関係が強烈に焼き付いている分「もっと!もっと!」と思ってしまいます。

今作の父子関係はサミュエルから気にかけられたいヘンリーとヘンリーに興味がないサミュエルという構造でヘンリーが傷ついている状況なのですが、ヘンリーの傷つき方の描き込みが弱めなのとサミュエルがヘンリーに対して抱く感情があんまり描かれないので(行動ベースと言いますか)、そこのところであんまり父子関係で感情が動きませんでした。もっとパワーゲームっぽくなるのかと思ったら結構ど直球な展開で物足りなかったです。

父子関係の歪みを描き出したシーンで1番良かったのは、ミスターHの出廷を願うサミュエルとそれを断ろうとするミスターH(ヘンリー)が手紙のやり取りをする場面。ヘンリーのためには手紙など書くことがないサミュエルがミスターHに対しては熱心に手紙を送り、それを受け取るたびにヘンリーが傷つくという展開は辛くて好きでした。

後半、ヘンリーが偽ることをやめて、その結果サミュエルから離れた人生を前向きに歩み出すという展開も好きでした。判決が出る前にヘンリーが罪の告白をしたもののそれは偽証罪扱いになり、贋作はシェイクスピア作品と認定される。ヘンリーは法廷を侮辱した罪で街から追放され、父の元からも離れることになるがヘンリーの足取りは軽やかでという流れは鮮やかです。


ヘンリーとミスターHの関係も個人的には物足りなかったです。H氏は本当にただヘンリーを創作と偽造の世界で後押しするガイド役のような存在でヘンリーやサミュエルの心理をもっと抉ってくれ!と思ってしまいました。ただこの点に関しては配役バランス的な問題もあるかなと思っているので後述のキャスト感想のところでも考えます。


真偽についての考察という点では、今作の序盤で「私がサミュエル・ウィリアムを演じます」「私がヘンリー・ウィリアムを演じます」という台詞によって作品全体の「演劇性」みたいなものを押し出しながら、最終盤ではアイアランド事件の真相やその後も続いた偽造事件を取り上げることで、観客がたった今見た作品の真偽も問いただすような入れ子構造になっているのが面白いなと思いました。観劇中観客は役者をサミュエルやヘンリーだと「信じている」状態で、それが最後の場面でパッと裏切られて放り出されるんですよね。

それから、ヘンリーが初めて模写したシェイクスピアソネットの真偽を捉えた言葉の使い方も良かったです。シェイクスピアの遺品を所持していることで世間から評価されるようになり、それまでは散々こき下ろされていたサミュエルの作品が突然高評価されるようになり、そうした偽りの評価を父に授けたヘンリーが罪を告白するきっかけになるのが、ソネットの言葉であるというのはグッと来ました。

 

演出について

2月6日初日(のはずだった)ジョジョミュがあんなバタバタしてる中での演出掛け持ちで大変だったろうなと思いながら見ていました。

良かったのはミスターHの衣装が全身真っ白で、そこに背景と同じ映像をプロジェクターで当てることでミスターHが透けているみたいに見せていた点。ヘンリーの創造の産物にすぎない人物をこんな風に視覚的にも表現できるのかと感動しました!!!

あと前述した手紙の場面は演出も好きでした。1つの机を舞台の中央に置いて、その上手側からヘンリー、下手側からサミュエルが頭を突き合わせるように互いの方を向いて座っていて、ただその真ん中には線が映し出されていてそこが別室であることが示されるけれど、2人はその境界を超えて手紙を互いに渡すという見せ方。これは演劇にしかできない見せ方で好きでした。

気になったのはなんと言ってもカーテンですね。ミュージカル作品でカーテンを舞台上に置いて上手く使えた試しはあるのだろうかと思ってしまうほどカーテンには悪い印象があります笑笑 今回はメインのセットの前に人の身長より少し高いくらいの真っ白なカーテンがあって、セットを転換する間にカーテンが閉まり、そこに映し出された映像の前で岡さんが歌うという展開でした。映像は当時の貴族たちを描いた風俗画で、その中の人物と同じポーズを取りながらアイアランド家について広まる噂話を語るというのは面白かったのですが、カーテンがシャーっと閉まることで興を削がれるのは間違いないです。

あ、あとヘンリーの謎のダンスシークエンス!あれは謎!!!ちょっと『スラムドッグ$ミリオネア』の虚無無音ダンスを思い出しかけました。明確な意図なく主人公を踊らせるでない。

 

キャスト感想

大内ヘンリー

今回初めて拝見しました。旧ジャニーズJr.の方なのですね。ミュージカル初挑戦となことでしたが、音域はばっちりでしたし、ロングトーンもブレずに伸びますし、発声や声量もよかったです。もうちょっと曲のリズムやグルーブに音符を嵌めてほしいとは思いましたが、バラード以外ではそれも気になりませんでした。あと音の切り方とか、歌への感情の乗せ方の点は「もうちょっとほしい!」と思いましたが、その点はヘンリーというキャラクターの素朴さや幼さみたいなところに上手く結びついていて、すごく役に合っていると思いました。


駒田サミュエル

流石の上手さですね。自分勝手な男を演じさせたら他の追随を許さないレベルです。ただあまりにも完成されすぎていてサミュエルという役に合っていたかというと微妙かもとも思っています。人好きのする愛らしさがあるのでヘンリーが父と関わりたいと思うのは納得できるし、偽りのものを信じてそこに執着するサミュエルの醜さを描くのも上手かったけれど、サミュエルの抱えている弱さみたいなものがなんかもろもろが完成されすぎて見えづらかったなという感じです。


岡ミスターH

岡さんもまたあまりにも完成されていて、そしてゴージャスすぎてヘンリーとの共犯関係の緊張感が薄いかもと感じました。隙が無さすぎると言いますか。

パフォーマンス自体は見ていて「あっぱれ!」と叫びたくなるくらい素敵なんですけどね。1曲目から歌声バズーカで最高だし、何をしてても美しいし、裁判官の威厳もすごいしで。


駒田さんもそうですが、年齢層高めの男性俳優さんがバリバリに歌いまくる作品ってあんまり日本では見ないのでこの作品でこれでもかと2人の歌声を浴びれたのはとても幸せでした!!!

 

そんなこんなでWWW日本版の私の中での評価は「健全すぎる」というところに落ち着きました。もう少し危うさのある(技術的な面ではないですよ!?)配役で見たらまた印象は変わってくるかもしれません。

 

【韓ミュ関連】