Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

ミュージカル『COLOR』9/8 S を見て考えたこと

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ワンシーンワンシーンはとにかく面白かったし、演者さんのパフォーマンスが素晴らしいので楽しめたのだけれど、作品としてはあんまり魅力的ではなかった。一番にはやっぱり実在のそして存命の人をモデルに他人が作品として描くのって難しいんだろうな〜というのを感じる。きっとミュージカルに限らずあらゆる作品において言えることだと思うし、その難しさにあえて挑戦してみたかったんだろうなというのもわかる。わかるが、やっぱりその壁は高いんだなと思ってしまった。

 

今作に限らず、存命の人間をモデルにする難しさとして、描く対象を解釈しにくいというのがあると思う。だってそこに本物がいるから。こういう人だったんじゃないか、こういう気持ちだったんじゃないかと作り手が考えていったときに、それは違うとか正しいとか判断できる当人がいるという状況は、作品を作る上で大きな困難になると思う。当人は自分が描かれる以上、自分が経験した感情や感覚がより「正しく」観客に伝わってほしいと思うだろうし、作り手側にはモデルになった人にその作品を受け入れてもらいたい、そうでなくてはならないという責任感が生まれる。それはごく自然で、作り手側も人様の人生を作品にする以上誠意を持つべきだと思う。ただ、正確さをいくらでも追求できる環境で作品を制作することで脚色の余地は減り続けるだろうし、作り手側の想像力と創造力は少なからず阻まれる。その中で面白い作品を作るのはきっととんでもなく難しい。私が作り手ならば避けてしまいたくなる。

 

COLORは、モデルとなった坪倉さんと密接にコミュニケーションを取りながら制作されたそう。私は原作についても実際の制作過程も知らないのでなんとも言えないが、おそらく正確さを追求しやすい環境だったのではないかな。そして今回はそれがうまくはまっていた部分もあると思う。今作からはよくある「お涙頂戴」な感じはしなかった。成河さんの演じ方もあって地に足を着けて今を生きる人間の物語になっていた。その反面、ストーリー展開に起伏がなくてものすごく平坦な作品だなという印象も受けた(特に後半)。平坦という表現が正しいかはわからないけれど、起こるべき展開が起こるべくして続いていく感じと言えばいいのか。でもきっとドラマチックな展開を用意すれば「正しさ」からは離れてしまうからモデルに誠実ではなくなる。その辺の塩梅が多分とてつもなく難しい。今作の場合はキャストに演技面でも歌唱面でも魅せられる方々を集めることで平坦さを若干カバーできているけれどそれでも感情のうねりみたいなものがなかなか生まれてこなかったんですよね。

 

これを書きながら、作り手が観客に届けたかったものはなんなのかという疑問が出てきた。いや別に観客が受け取るものが全てではあるんだが、作り手の側の意図も知りたくはなる。私は「ぼく」の人生がどんな様子だったのかは受け取ったけれど、その感情については受け取っていない。後者は「感動ストーリー」を避けるために意図的に排除されているようでもある。でも「ぼく」の人生を届けたいのならば、その最も正確な記録として坪倉さんの著作がある中で、ミュージカルという媒体を使って作り手はどこを目指したんだろう。私はミュージカルは感情を描くのに適した媒体だと思っているので、その意味では今作が目指したであろう方向性と表現媒体の相性が悪いような気がしてくる。

 

あと面白いなと思ったのが、私はこの感想を書き終わるまで他の方の感想を読めないので友人から聞いたところによるとなのですが、どうやら今作の感想は絶妙に内容に触れるのを避けたものが多いんだとか。今作に否定的な意見を述べることはモデルになった方の人生を否定するようでなんとなく心苦しいのかもしれません。でも、「ぼく」の名前が草太なことによって作品はモデルからある程度切り離されていると考えてもいいんじゃないかなと私は思います。

 

最後に好きだった場面の感想を。

車に乗ると電線が追いかけてくる話、ご飯とチューペットを初めて食べた時の話、UFOキャッチャーのクマたちが助けを求めているようで必死で救出しまくった話、自動販売機という偉大なる人類の発明にびっくりする話、どのエピソードも私たちが知らぬ間に失っていった感覚に再び出会えるような素敵なシーンになっていてとても好きでした。クスッと笑えるように描かれているのもよかった。UFOキャッチャーのシーンではリトルグリーンメンを思い出しました。彼らって掴まれると「神様〜」って言うんですよ。

 

そしてめぐ成河の感情のぶつかり合いソングが素晴らしかったですね。序盤から安定して素晴らしい歌声を届けてくれていたけれどここにきて突然出力250%の爆音で歌い始めるのでびっくりしました。箱のサイズを超えとる。やっぱり歌唱力のぶつかり合いを聞くのって楽しい。

 

公演の感想というよりは公演を見て考えたことばかりになってしまったし、自分の考えがまとまらないから書きたいことが書けたのかもわからないけれどこれで感想終わります。なんか思い直したり、追加で考えたことがあれば足します。