Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

こんなご時世に芸術を愛するということ『夜来香ラプソディ』3/13 J 感想

素敵な作品でした。とても好き。

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近年、大学の人文科学系学部を廃止する流れがあったりと「芸術は役に立たない」として切り捨てられる傾向があるように思われます。そこにコロナ禍での「芸術は不要不急」といった話が加わって、さらにその風潮が強まったようです。

今作は芸術を軽んじる流れに対してNOを突き付ける姿勢を持っていて、また芸術の持つ力を信じる気持ち、信じたいという願いが感じられてとても素敵な作品だな〜と思いました☺️

「今」上演することに意味がある作品

ここ1年舞台作品を見てきて、どうしてこの演目を「今」上演することになったのだろうかと疑問に思う瞬間が多々ありました。それは古い価値観が美化されている作品などに対しての疑問です。その反対に「今」この作品を上演する意味が色濃く出ている作品にはなかなか出会っていないような気がします。

今作では、戦時下の上海でのコンサート開催コロナ禍での舞台作品の上演が重ねられています。開演時間になっても客席の照明が落ちず不思議に思っていると、1階席を日本兵が見回っているのが確認できます。シアターコクーンを上海のコンサート会場に変えてしまうことに加えて、戦時下の上海の緊張感が伝わってくる素敵な演出でした。そしてようやく幕が開くと服部先生が客席に向かい、コンサートを開催するにあたっての言葉を述べます。

その中で強調されるのは「こんなご時世に足を運んでくださってありがとうございます」という内容です。「みなさんの勇気のおかげです」と。服部先生は戦時下という「こんなご時世」李香蘭のコンサートに訪れた観客に対してこの言葉を放つわけですが、客席でそれを受け取る私たちはコロナ禍という「こんなご時世」に劇場に向かうことを選んだ人々であり、服部先生の言葉が自分に向けられた言葉に感じられるという構図が鮮やかだなと思いました。これはコロナ禍の「こんなご時世」でなければ成立しない効果なので、また別の時代に上演したとしても「今」には敵わない、「今」だからこそというのが最も感じられた瞬間でした。

災禍の中で芸術を愛するということ

戦時下や災害時というご時世に芸術が軽んじられる時、人命がかかっている状況で「そんなことをしている余裕はないはず」「芸術は災害や戦争に対して役に立たない」といった文言が使われます。その場合の芸術は嗜好品的な意味合いが強いんでしょうね。言わんとすることはわかります。今作では、山西さん演じる長谷部さんがはじめこのような立場を取り、服部先生がそれに対して感情をあらわにします。

私自身は芸術至上主義の傾向があるので、芸術は最高位の目的であってさらに上位の目的は存在しない、何かの役に立つ必要もない、そのようにあってほしいと思っている節があり、このスタンスは異常事態においてもあまり変わりません。今作で言えば、服部先生が山内さん演じる山家少佐によるコンサート開催の提案に対し、音楽を抗日運動を抑える道具にされるとして憤っていたり、プロパガンダ音楽を過去に作ってしまったことに心を痛めていたりといった場面があります。音楽が道具に成り下がることへの悲しさという意味では私のスタンスにも通ずるものがあるかもしれません。

しかし、それに加えて服部先生には人々の心に寄り添い慰めるような音楽を届けたいという想いがあり、実際に彼の音楽が山家少佐と長谷部さんを励まし救いました。そして音楽の持つ力を身をもって知っている山家少佐はコンサートの開催を大いなる野望とし、はじめは耳を閉ざしていた長谷部さんもコンサートを支える決心をする。そのコンサートでは互いの国が戦争下にある人々が音楽の下に寄り添い合う。抵抗があったという事実が後世の人々を奮い立たせるように、そのようなイベントが開催されることは大きな意味を持つと思います。そこに芸術の持つ力が感じられました。

芸術はあくまで手段ではなく目的であってほしいと思いつつも、感性に訴えかけることができる点で芸術は人種や国境に縛られず人々を繋ぐ力を持つのは確かだと思います。作中の人々がそう信じたように私もそう信じたいです。芸術を愛することは人と通わせる心を持つことなのかもしれません。それは分断が起こりやすい災禍にあってはとても重要なことだと思います。

こんなことを書きながらふと、やっぱりロシアへの文化制裁は良くない気がするなと考えたりもします。

本能の赴くままな感想(主に晴香ちゃんとねねちゃんが最高だったよという話)

今作の好きだったポイントとして恋愛要素が少ないっていうのがあります!香蘭&服部先生&黎の仲良しっぷりもかわいいし、香蘭とリュバもこれから仲良くしてほしいな。

それはそうと松下さんが白洲汛さん演じる黎に「レイ!」「レイ!」って呼びかけまくるものだからスリルがありましたね〜笑 まあ自分の名前呼んでる感じだけどね

「彼女を~」を見に行くことが叶わなかったので、王家ぶり半年ぶりの晴香ちゃんでした。音楽劇を見た経験が少ないのですが、今作はコンサートシーンと当日に至るまでの日々が交互に演じられるので予想よりも歌唱パートが多くてうれしかったです。

晴香ちゃんは歌い方も普段とは変えていてそれでいて歌が上手いので、また一段と好きになってしまいまし~!晴香ちゃんの香蘭は飾りすぎない洗練された美しさがあります。戦時下で日本人女性が李香蘭として生きることの重圧や恐怖は計り知れません。そんな中でも芯をもって生きている姿が美しかったです。品のある美しさを放つ場面が多い分、服部先生とレイと3人で飲んで歌う場面の楽しそうな香蘭もまた素敵でした。

ねねちゃん演じるマヌエラは、晴香香蘭が「静」だとすれば「動」、華やかな魅力のある役どころ。ちゃきちゃきしていて日本兵にも怯まず口答えしていく姿には惚れるしかありませんでした。お衣装のバリエーションも多くてどんどん好きになってしまう。ビジュが強い。

それから上山さんの役どころがめちゃめちゃつぼだった笑 勝手に見た気になっていたが実際ははじめましてな上山さん。SNSで伝わってくるお茶目なところが今作ではフル活用されていてよかったです~!マヌエラのダンスシーンに乱入してきたかと思ったら朗々と歌い上げて変なポーズして去っていくのが面白すぎました。