Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

9.11の傷を描いた2人ミュージカル『ジョン&ジェン』12/21 M 感想

f:id:yadokarinko:20231221234615j:image

新たに「2人ミュージカル」を知れて嬉しい年末でした!写真はロビーにあった舞台セットの模型

作品・公演概要

John & Jen
音楽: Andrew Lippa(アンドリュー・リッパ)
歌詞: Tom Greenwaldトム・グリーンウォルド)
脚本: Andrew Lippa、Tom Greenwald
初演: 1995年 オフBW

John & Jen (Original Cast Recording From the Musical)

John & Jen (Original Cast Recording From the Musical)

  • アンドリュー・リッパ & Tom Greenwald
  • サウンドトラック
  • ¥1935


PARCO PRODUCE 2023 ミュージカル『ジョン&ジェン』
日本初演
劇場: よみうり大手町ホール
演出・翻訳・訳詞・ムーブメント: 市川洋二郎

 

キャスト

ジョン: 田代万里生
ジェン: 新妻聖子

 

感想

ジェンとジョンの姉弟が成長していく過程を描いた1幕、ジェンとその息子のジョンの母子関係を描いた2幕の重ね合わせがとても面白い作品でした。

1幕はジェンとジョンの幼少期から始まって、聖子姐さんと万里生さんの全力子ども演技と全力思春期演技がとにかく楽しい!絶妙に横柄なお姉ちゃんと「え〜!!!」って言いながらそれに応えるしかない弟の関係性が、兄弟のいない私にも「あるある!!」と感じられるリアリティで大いに笑いました。でもそんな楽しい場面の中にも、両親の不仲によりサンタが来ないことを悲しみつつ2人で「サンタは来ない もっと必要な人のところへ行った」と慰めあう場面や、父親の暴力から互いを守ろう、できるだけ早く家を出ようと誓う場面もあって、辛い状況と愉快な日常の両方がバランスよく提示されていて好きでした。私が特に好きだったのは、ジェンが出場するバスケットボールの試合をジョンが観にくるときのルールを定めるシーン。「あんたが私の弟だって言わないこと」これが2幕では関係が反転して、ジョンが出場する野球の試合をジェンが観にくるときのルール「ママが僕のママだって言わないこと」になるのが良かったです。ここの場面の全力応援聖子ママも最高でした😂

そんな風にいがみ合うようになりつつもいつも一緒にいた2人だったけれど、ジェンの進学をきっかけに離れ離れに。ジョンは引き留めるけれど、ジェンは「いつまでも手を引いてあげられるわけではない」「いえを守って」と言ってニューヨークへ行ってしまいます。麻薬とパーティ三昧のジェンと家に残ったジョン、そこに9.11アメリ同時多発テロが起こります。この場面は離れた場所にいる2人が同時に同じ方向を見つめ呆然とする中、紙が頭上からバラバラと降ってくるという演出になっていて、2人にとってのテロの衝撃が感じられました。

その後、帰省したジェンはジョンと再会し、ジェンはカナダへの移住を計画していること、ジョンは軍隊に入ろうとしていることを互いに打ち明け、互いにそれに反対します。特にジョンの入隊は、彼を殴っていた父からの影響であるとしてジェンにより強く否定され、2人は決裂します。そしてその後のシーンでジョンが戦死したことが告げられます。ジョンがドッグタグをジェンに渡しながら「いえを守れって言ったじゃない」と言うのが辛かったです。ジェンが守ってほしかったのは2人が過ごした「あの家」だけれど、ジョンは「国家」を守ろうとしてしまったんですよね。そこには9.11の傷が大きく関わっているよなと、昔どこかで「9.11のあと、友人や家族を守るためと軍隊に入ったアメリカ人がたくさんいた」と聞いたのを思い出しながら考えていました。

 

2幕は親子の話になる訳ですが、弟ジョンの死を引きずるジェンは息子ジョンに自分と弟ジョンの思い出をなぞらせようとする毒親になります。ジェンにとってはクリスマスは「サンタが来ない」思い出のクリスマスなので、息子ジョンにも毎年「サンタが来ない」クリスマスが訪れます。5歳の息子ジョンが、サンタなんていないと察しつつ、サンタが来ないことを悲しむと母親が満足することを知っていて悲しいふりをしているのが切なすぎました。その後も「弟を死なせた」ジェンは息子に対して過干渉・過保護になりまくります。仕舞いには、家を出て欲しくないからとジョンの大学入試結果をジョンのPCから勝手に削除するという毒親っぷり。流石にこれをきっかけに2人は話し合って和解するのだけれど、不幸の連鎖が次の世代にまで及んでしまう悲劇は結構好きだったりするので楽しく観劇していました。そして、不幸の連鎖の中心に9.11があることを考えると、この作品はアメリカ社会に横たわる9.11の傷を乗り越える物語なんだと思いました。

 

2人ミュージカルってだけでものすごく大変なのに、はしゃぎ回らないといけない楽しいパートととんでもない重さの悲しいパートがあってとてつもなくハイカロリーな演目でしたが、強強キャストで固められているので流石でした。

ジェンは特に楽曲のキーが高そうで、地声ではしゃいだ後にすぐにハイキーを歌い上げられる聖子姐さんの喉は一体どうなっているんだ!?と宇宙猫顔になりながら観劇しました。ジョンは弟パートと5歳児パートが長いのでとにかく跳ねたり走ったり運動量がものすごかったです。万里生さんは2年連続年末に大手町ホールでふわふわ頭を振り乱しながら走り回ってますね笑 来年はsoml再々演を頼んだ!!

それから今回、子どもらしさや思春期らしさを演出するために訳詞に「マジで」とか軽めの言葉が使われていたのだけれど、まったく浮いていなくて上手くはまっていたので「ナイス訳詞」と思いながら観劇しました!セット転換はなしで照明でメリハリをつけていたのも良かったです。市川さん👏👏

 

 

【聖子姐さん関連】

来年もDIVAやってくれないかな!!最強の歌うまさんたちがベルトコンベア状態で次から次に出てきてショーストッパー楽曲を歌いまくってくれるあの幸せ空間。

 

【万里生さん関連】

チルダに行きそびれて、アナスタシアがキャスト変更になったので今年初にして最後の万里生さんだったんですね!?