Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

6人の女性で紡ぐ1人の女性の物語『東京ローズ』12/23 M 感想

2019年初演の最新ミュージカルの輸入&フルオーディション実施&日系アメリカ人が題材ということで解禁時から「絶対見よう」と決めていた作品。

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U25チケットを秋の欧州観劇旅行中に取ったという思い出付きです。

作品・公演概要

Tokyo Rose
音楽: William Patrick Harrison(ウィリアム・パトリック・ハリソン)
脚本・歌詞: Maryhee Yoon(メリー・ユーン) & Cara Baldwin(キャラ・ボルドウィン)
初演: 2019年 エディンバラ

Tokyo Rose (Original Cast Recording)

Tokyo Rose (Original Cast Recording)

 

東京ローズ』 日本初演
劇場: 新国立劇場 小劇場
演出: 藤田俊太郎
翻訳: 小川絵梨子
訳詞: 土器屋利行

 

キャスト

飯野めぐみ
シルビア・グラブ
鈴木瑛美子
原田真絢
森加織
山本咲希

今回の公演はフルオーディションが実施されていて、936人の中からこの6人が選ばれたとのことです。日本のミュージカル界全体でもっとフルオーディションの公演を増やしてほしいな。

 

作品の感想

アイバ・郁子・トグリ(Iva Toguri)の人生や「東京ローズ」を巡る話を全く知らなかったので、彼女の物語を新たに知るという意味ではとても面白かったのですが、ミュージカル作品として面白かったかというと微妙というのが率直な感想です。

作品はアイバがこれから「東京ローズ裁判」に挑むという場面から始まり、裁判の中で過去を振り返る形でアイバのアメリカでの生活や日本への渡航にスポットが当てられ、そのまま時系列で戦時下での彼女の暮らしや終戦後の拘束・裁判までが描かれます。

最初の楽曲は「アイバ・トグリのことを知ってほしい」という内容を6人が踊りながら歌うナンバーで、ちょっと『ハミルトン』のAlexander Hamiltonっぽさもあって楽しかったです。ただその後の楽曲は楽曲間のメリハリみたいなものが少ないせいか、どれものっぺりして印象に残らないな~と思ってしまいました。日本に住むアイバの叔母が「出る杭は打たれる」という言葉を教える楽曲なんかは布団を使ったダンスがかわいくて良かったのですが、全体に楽曲のパンチが弱いなというところです。物語が時系列で淡々と進む分、楽曲での盛り上がりが少ないとちょっと退屈。。。

その反動もあってか、1幕終わりの楽曲はかっこよさが際立っていました。ラジオ東京で「GIのやる気を削ぐための」アナウンスの仕事を始めたアイバが、原稿の読み方を変えることで彼らを貶す言葉はそのままに反対に彼らを鼓舞するという場面で歌われる楽曲は、「立ち上がれ」という力強いフレーズが印象的な熱い楽曲になっていました。それから2幕で、国家反逆罪の容疑で拘束されたアイバが日本側からもアメリカ側からも責められることへの怒りを歌う「Crossfire」もかっこよかったのですが、同じ歌詞のコーラスの繰り返しがやや多いのが気になりました。

ダンスがかっこよかったのは、東京ローズの正体を探りに日本へやってきたアメリカ人記者が歌う楽曲。ただ、激しいダンスの場面が冒頭とここくらいしかないのでややダンスシーンが作品から浮いている感じがしてしまうのは勿体なかったです。

 

今作は6人のキャストが代わる代わるアイバと周囲の人々を演じる手法を取っていて、山本さん→瑛美子さん→原田さん→飯野さん→シルビアさん→森さんの順でアイバを演じていくのですが、アイバ・トグリという1人の女性の人生を描くにあたりリレー形式が採用された理由について、私はまだ納得できる答えを見つけていません。アイバを複数人が演じることで生まれる「匿名性」は東京ローズと呼ばれる女性がアイバ以外にもたくさんいたという情報とは親和性が高いですが、ラジオ放送に携わっている間以外のアイバの人生は一般性や匿名性とはかけ離れたものであるように思えます。アイバの置かれた状況は移民2世としての生まれと戦時下でのルーツ国への渡航という特殊な事情が重なって生まれたものなので「誰もがアイバになり得た」物語ではないと思うのです。そうなってくると、演じ手が変わってストーリーが分断されることによるデメリット(「1人の人生」としての重みが希薄になる)の方が大きく感じてしまいました。個人的には、1人の俳優がアイバを演じてしまった方が彼女の物語に入り込めたのではないかな~と思っています。ただ、どの場面も演じる方の持っている雰囲気や魅力がその時々のアイバにとても合っていてそれを見るのは楽しかったです。流石フルオーディションだけありますね。アイバ以外の役もハマっていて、中でもシルビアさん演じるアイバ父と飯野さん演じるアイバの母&叔母が温かくて愛らしくて私はとても好きでした。

 

それから宝塚以外でオールフィーメルの作品を見るのが(SIXを除いて?)ほとんど初めてだったのでわくわくしました。男性の役も演じる際には衣服はその役に合わせたものにしつつもカツラや付け髭などは使わず、声のトーンなどで変化をつけていて、その辺りも好きでした。特に瑛美子ちゃんの声が男性役との親和性が高かったのが新たな気づきでほくほくしました。

 

そんなこんなで作品としてはそこまで刺さらなかったのですが、パフォーマンスとしては楽しかったです。あと『アリージャンス』で得た日系人収容についての知識が今作の観劇に役立ちました。作品と作品が繋がる瞬間って楽しいですね。

 

そして女性6人のミュージカルと言えば『SIX』!(隙あらば宣伝するスタイル)