Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

スリルみを感じる韓国発の2人ミュージカル『TRACE U』8/4 S 感想

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作品概要

初演:2013年 韓国・ソウル・大学路

オリジナル版演出:김달중(キム・ダルジュン)

脚本・作詞:윤지율(ユン・ジユル)

作曲:박정아パク・ジョンア

パク・ジョンアさんは、私が先日韓国で見てきた『海賊』の作曲家さんです!今回の公演、その『海賊』を見て好きになったチョン・ドンファさんが以前出演していた大学路の人気演目っていう情報だけで見に行くことを決めたので、あとからジョンアさん作曲なことに気がついてほくほくしました。しかも2人ミュージカルだったんですよ!(そこも調べてなかったのかいという笑)

↓『海賊』の感想。とても良かったです。日本でも上演されることを願っています。

ちなみに『トレイス・ユー』も『海賊』のようにジェンダーフリーキャスティングが可能になっているようで2023年のソウル公演では女性ペアが初登場したそうです。今回の翻訳上演でも、宝塚出身の瀬戸かずやさんと宇月颯さんによる女性ペアがあります。

演出:加古臨王

上演台本・歌詞:月森葵

音楽監督オレノグラフィティ

劇場:浅草九劇

主催:Musical『TRACE U』製作委員会

最近、というか韓国ミュの日本での翻訳上演の際によく「製作委員会方式」を見かけるようになったのだけれど、どういう会社が絡んでいるのか気になりますよね。先月見た『DEVIL』はチケットの記載でエイベックスが絡んでいるのが確認できましたよ〜

 

当日のキャスト

イ・ウビン:津田英佑

ク・ボナ:榊原徹士

2人とも生で見るのは初めてでした。津田さんはアナ雪のハンスなのでお声だけよく知っていましたが。

榊原さんは今回が完全な初めましてでした。吉本坂46の方とのこと。先日MR!でニニを演じていて素敵だった藤森蓮華さんも吉本坂でした。もしかして吉本坂にミュージカル人材がたくさんいる?🤔

 

感想

作品内容について

めちゃくちゃロックミュージカルで、お二方の歌唱力も申し分なかったので楽しかったんですけど、お話は・・・って感じでした。

韓国×2人ミュージカルだと、感情を鬼の如く煮詰めてくると予想していたんですけどね。抽象度が高いまま煮詰めるとあんまり濃くならないんだなと。作中に出てくる要素自体はしっかり拾えば濃くなりそうなものばかりだったので、「なんか惜しい気がする!」とも思いました。それから、2人芝居・信用できない語り手・扱う題材・展開の持っていき方から、かなり『スリル・ミー』を意識した作品だとも思いました。ライブパフォーマンスとしても楽しめるという意味では『DEVIL』っぽさもあるかもしれません。

⚠️ 以下、ネタバレありで行こうと思います。

 

物語の中心になる謎がこんな感じで前から順番に提示されていきます。

・ボナの頭痛と異常行動の原因はなんなのか

・ボナは何を探しているのか

・ボナの待っている女の人は誰なのか

・女の人はどこに消えたのか

・ボナは彼女を殺したのか

・ウビンとボナの関係性はどうなっているのか

・全ての出来事はどこで展開していたのか

これらの謎とその答えは分かりやすく示してもらえることはなく、ライブパフォーマンスの間に挟まれる断片的な場面を通して観客が汲み取っていく必要があります。少しでも油断すると取り逃してしまいそうになるのと、1つの謎がより大きな謎を呼ぶような展開になっていてやや伝え方がわかりにくいので、事前情報0で望んだ私は結構ついて行くのに必死でした。とはいえ、初見でも拾えきれないということはないです。

 

ウビンとボナの関係について

ボナが薬を飲むシーンでウビンの手が震えていること、左手首に同じリストバンドをしていること、ウビンの「俺はお前だ」という発言、病衣を着せられるボナと壁を覆うように降ろされる白い布、などからウビンとボナは2つの人格で1つの身体を共有していて、彼らは人格を1つにするために精神病院に入れられていることがわかります。

そして、序盤でボナが歌ってウビンがギターを演奏した表題曲の「TRACE U」が、役割を入れ替えて物語の最終盤で演奏されることから、表に出る人格がボナからウビンに切り替わったとわかります。

このあたりの展開に『スリル・ミー』の99年っぽさを感じました。が、99年ほど衝撃的だったかというとそこまででもなく。ウビンとボナが2重人格のそれぞれの人格にあたるんだろうなということは結構序盤から勘付けますし、2人のこと以外の情報がほとんど提供されないので主人格の入れ替わりにもあまり感情が動きませんでした。

 

・ウビンはボナの父とバンドを組んでいた(ボナ父がボーカルでウビンがギター)

・ボナ父が交通事故で死んだため、ウビンがボナ子を引き取って育てた

・ボナには戸籍がない

このあたりの情報が、2人の外側にあることなのか、それとも完全にまがい物なのかっていうところも不明瞭で、もしも完全に内側で作られたものならばこれらの情報についてはもう少し説明がほしかったところです。ボナが主人格だったと考えると、なぜ彼のもう1人の人格が「父の友人」という世代の離れた存在なのか(メンターがほしかったという心の表れなの?だとすればどうしてメンターを欲するの?)、全てが妄想なら諸々のバンド設定はどこからでてきたのか、そういった背景の描き込みがもっとあればなと思います。

 

パフォーマンス面

津田さんは歌の安定感が素晴らしかったです。ハンスってキーが地味に高くて難しそうな音だな~歌えるのすごいな~と思ってきたのですが、その音域の広さが遺憾なく発揮されていて素敵でした。

榊原さんはとにかくロック歌唱が良かったです。ロックミュージカル好きとしては、日本ミュ界隈にロック歌唱できる方が少ないのは大問題なんですけど、ここにもいましたね。バラードやアカペラの部分になるとピッチが不安定になるのは気になりましたが、ロックナンバーになると高音までがっつりシャウトしていて素晴らしかったです。舞台上を飛び回りながら歌っていたのも良かったです!あと、これは完全な蛇足なんですけど、お顔の雰囲気が小池徹平さんに似ていて脳が何回もバグりました。

2人の歌唱スタイルが全く違うので(津田さんはミュージカルっぽくて、榊原さんはロックっぽい)、ウビンとボナは速攻で「音楽性の違い」にぶち当たりそうだなと思いながら見ていました。

 

演出面

今作では通常の舞台のスペースに加えて、上手側の後方座席部分にもう1つステージがあって、その間の通路を含め、客席を取り囲むようにパフォーマンスの場がありました。九劇は箱自体も小さいので演者と観客の距離がとても近く、没入感のある観劇になりました。作品の冒頭も、舞台上からウビンが懐中電灯で客席を照らし出すところから始まり、ウビンとボナがマイクスタンドで歌っているときには、観客はクラブ・ドバイの観客として応じることを求められます。

こういった観客参加型っぽい演目って日本だと(私を含め)静かに観劇したい観客が多いのでなかなか難しいですね。この演目も韓国のお姉さんたちに囲まれながら見たらまた違った感情のうねりを体験できそうだなと思いながら拍手していました。いやはや、いつか来るであろう『SIX』日本公演が怖いよ。みんな、クレーブスに「ひゅーーーー」ってやろうね。私も頑張るからさ。

 

終演後、ちなみにドンファさんはどっちの役だったのかなと調べてみたらウビン役でした。カテコと思われる動画が出てきたので見てみたら、シースルーの黒いニットを着て金髪を振り乱しながら跳ね回って歌っていました。ここでもアグレッシブ。

その動画ではボナ役(と思われる方)も金髪で、2人の見た目が寄せてあるのかな?と思いました。劇中にナルキッソスのことを歌う楽曲がありましたが、2人とも金髪でビジュを似せてあるならば、ウビンとボナの関係はナルキッソス本人と水に映ったナルキッソスに重ねられているっていうのがもっとわかりやすくなるなと思いました。いつか韓国版も見てみたいですね。

 

【8/6 追記】

コメントをくださった方ありがとうございます!情報たくさん書いていただいてありがたいです☺️ 特に「イオエオディオ」のところは観劇しながら「EOAODIO???」とはてながたくさんになっていたので、由来が知れてスッキリしました。コメント返しのやり方がわからないので、こちらに書かせてもらいました。

 

 

【韓国ミュージカル関連】

チョン・ドンファさん&キム・デヒョンさん回の『海賊』

あっきーさんWhite&ハン・ジサンさんBlack回の『DEVIL』

関係性の煮詰め方的には『マリー・キュリー』と『ルードヴィヒ』が好きでした。

 

【私の好きな2人ミュージカル3選】