Mind Palaceがない代わりに

来年には大学生じゃなくなるのでタイトル改めました。

あらゆる要素がぴったりはまった良質な群像劇『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』2/22 S 感想

派手ではないけれど確実に魅力がある、こういった作品を持ってきてくれるホリプロのこと好きよ。これからもよろしくね。

f:id:yadokarinko:20230223100327j:image

 

作品・公演概要

The Band's Visit
原作: 2007年公開の映画 "ביקור התזמורת"(『迷子の警察音楽隊』)
音楽・作詞: David Yazbek(デヴィッド・ヤズベック)
脚本: Itamar Moses(イタマール・モーゼス)
初演: 2016年 オフBW
         2017 BW

 

ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊
劇場: 日生劇場
演出: 森新太郎
翻訳: 常田景子
訳詞: 高橋亜子

 

感想

変わらない毎日の中に突如出現した非日常を通して変わるものがあれば変わらないものもある。そんなお話。

 

群像劇なので主要登場人物がなかなか多いのだけれど100分という短い公演時間の中で、それぞれの登場人物のこれまでと出会いによる動揺、そしてこれからを丁寧に描いていてよかったです。楽曲も好み。舞台上で奏でられる中東の音楽は心地良いし、各キャラクターのソロ曲でしっかりその人の置かれた状況と感情が表現されていました。


今作は、エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊 (アラブ語話者) が、演奏地を誤ってイスラエルの辺境に位置するベト・ハティクヴァに誤って到着してしまい、その街の住人たち  (ヘブライ語話者) と交流する話。両者がコミュニケーションを取るときには英語が使われていて、今回の上演では、英語の台詞を日本語に訳していた。序盤では住人たちが英語=日本語を拙く話すような場面もあるけれど、徐々にその表現は薄まっていく。結構アラブ語orヘブライ語で話す場面が多いのだけれど、演者のジェスチャーやリアクションから会話の内容を汲み取るのは楽しい。

 

それから今作では、俳優が楽器を演奏したり、演奏者が俳優として出演していたりします。劇中の音楽が舞台上にいる音楽隊の面々によって奏でられるのが素敵です。(サポートとして舞台裏にも4人ほど演奏者の方はいますが) 新納さん演じるカーレドがトランペットを独奏する場面があったりします!すごい!お芝居と演奏が舞台上で繋がっていくのが本当に素敵でした。

 


舞台美術や演出もよかったです。大きな盆を赤い透け感のある壁で仕切ってそれを回してシーンを展開させていた。盆が回ることで、一晩中という短い時間に起きた出来事を平行して描くことができるという意味で効果的なセット&演出だったな〜と思います。赤い壁は照明の当て方によって印象が変わって、昼間は灼熱、日が沈めば一気に冷え込む、砂漠の雰囲気が表現されていました。

 

ディナの台詞に「こうしていると物語と音楽が何よりも大切であるかのように思えてくる」というのがあって、それがとても好きでした。これは、ディナが感じたことであると同時に、多分今作を見ながら観客が感じることでもある。舞台上と客席が同じ感覚を共有する瞬間っていいですよね~。今作は特に激しい展開があるのではなく、スローな作品なのでより一層、そういう感覚を大事にできると思います。そして、物語や音楽は何よりも大切であるかのように思えるけれど、それらが何もかもを解決してくれる訳ではないということも描かれていて、押しつけがましさが全くないところも好きでした。

 

配役もとてもよかったです!!

風間さんの規律正しくもチャーミングなトゥフィーク、女好きのコメディ枠かと思いきやどんどん退廃的な雰囲気を放ち始める新納さんのカーレド、クソ男ムーブ全開の大ちゃんサミー、怒りと不安を押し込めて懸命に生きるエリアンナさんのイリス。みんな役にハマっていて、そして上手くて、素晴らしかったです。

 

そんな中でも、めぐさんのディナがやはり素敵でした。歌が猛烈に上手いので、耳馴染みのない中東風の音階もすっと耳に入ってきます。Omar Sharifでの温かみがあってやわらかい一方で、力強く、それでいてどこか寂しさも感じる歌声がとても好きでした。本当にめぐさんの歌声は永遠に聴いていられる。音楽隊と対面したときのリアクションであったり、トゥフィークのことを知ろうとぐいぐい迫るところであったりに、ディナは人が好きなんだろうなというのが感じられたのもとてもよかったです。だからこそラストの切なさが際立つ。

 

それから矢崎くんのイツィックもとても好きでした。最初にパピと一緒にいる場面を見て、「何歳くらいの役なんだ?子どもの役?」と思ったんですよ。でも物語が進んでいくと、彼が結婚していて子どももいるということがわかる。イツィックが子供のころ、自分の誕生日パーティに出そびれたことがあるという話をする場面で、その理由は「隠れていた木の上の居心地が良くて降りたくなかったからだ」と言うのだけれど、妻のイリスに「それは大人になるのが怖かっただけだ。今でもあなたは木の上にいる」と言われてしまう。実際に彼は求職中と言いつつも実際には働いていない様子。この場面を見たときに、最初に感じた「子どもの役なのかな?」という感覚とびびっと繋がって、感動しました。Itzik's Lullabyも本当に小さな部屋の片隅で歌われているかのように感じられてよかったです。

 

永田崇人くんのパピも良かった!劇場を出たあと友人と「誰が演じてた?名前調べよ!?」ってなりました。新納さんが演出したHOPEに出てらしたんですね。KAで見た小林亮太くんも素敵だったし、HOPEキャストの活躍が目覚ましい。パピという役自体が面白くてかわいい役ではあるんですけど、なかなかの挙動不審具合でそれでいて愛らしく演じていたのが素晴らしかったです。Papi Hears the Oceanが面白すぎて!いっぱい笑いました。

 

あとはこがけんの電話男ですね~。お笑い番組で歌っているのを見て、絶対ミュージカル出たほうがいいよ!って私を含めみんな思ってたんでしょうね。歌唱があるナンバーとしては作中の最後にあたる曲Answer Meでメインを務める、しかもそれまではあまり歌わないという役どころで、重要なポジションにあたるのですが、歌でしっかり作品をまとめて閉めていました。上手いけれど劇的になりすぎない素朴な歌声が作品が描いているものともぴったり合っていて、ナイスキャスティングでした。

 

群像劇では1人1人にフィーチャーする時間が短くなる分、短い場面、短いソロパートで役柄をしっかり表現できる人が必要で、今回の公演ではそういったキャストを揃えられていたのが良かったと思います!素敵な作品、素敵な公演でした。

 

日生劇場GC階 初体験

今回はU25チケットで観劇したのですが、憧れのGC階をいただくことができました!ずっと座ってみたかったんです。

座ったのは下手側のゆるくカーブがかかっているあたりの席。はじめは舞台に近い左側の耳からばかり音が入ってくるのに違和感があったのですが、それもだんだん気にならなくなりました。前列の人の頭は舞台に被らないし、見切れもなく、ノーストレスで鑑賞できました。

評判として、作品の規模に対して劇場が大きすぎるというのも聞いていたのですが、GC階は2列のみで、上階のせり出した部分が天井として視界にかかっているのもあり、結構こじんまりした空間になっていて、作品との相性もいいな~と思いながら見てました。

 

今作は2017年BW初演ということで比較的新しい作品。ホリプロは一昨年には2017年WE初演のEverybody's Talking About Jamieを持ってきてくれたし、本当にありがたい存在。マチルダも楽しみにしてる!

 

直近のホリプロ演目