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私には教養が必要なんだよ『ジェーン・エア』3/25 M 感想

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私、ポール・ゴードンの音楽が好きなんだわ。DLLから思ってたけど今回で確信した。

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萌音氏ジェーン回も見てきたので、比較感想はそちらに書いていきますね。

作品・公演概要

Jane Eyre
原作:Jane Eyre by Charlotte Brontë(シャーロット・ブロンテ
作詞・作曲:Paul Gordon(ポール・ゴードン)
脚本:John Caird(ジョン・ケアード)
初演:1995年 ウィチタ
   2000年 BW

劇場:東京芸術劇場 プレイハウス
演出:John Caird
翻訳・訳詞:今井麻緒子

芸劇が自然豊かなソーンフィールドに

ジェーン・エア』では、舞台の奥からオケピまで全体が植物で覆われていて、作品の舞台となるイングランドの自然豊かな風景や空気感が開演前から伝わってくる。

『太平洋序曲』といい『ジェーン・エア』といい (どっちも梅芸だね!) セットが凝っていると劇場に入った瞬間の幸福感がものすごい。これからこの世界を体感するんだっていうわくわくが膨らんでいくよね。

 

古典世界における先進性を味わうためには

私は古典作品を読むことなくここまで来てしまったことを今になって後悔しているところで、『ジェーン・エア』も原作を読んだことがないんですよ・・・。もろもろ落ち着いたらすぐに読もうと思います。

 

ちなみに古典未読コンプレックスになったきっかけは、同じくジョン・ケアード×ポール・ゴードンの『ダディ・ロング・レッグズ』を見たこと。ジルーシャが歌うThings I Didn't Knowに一般常識として出てくる古典に関する文言が知らないものばかりで焦った。『大いなる遺産』も『エレクトラ』も読んだことがないのよ。

 

話が逸れたけれど、今回のプロダクションを見て感じたのが『原作出版当時の先進性を味わうには教養が必要だ』ということ。

 

Wikipediaをさらっと眺めただけだけれど『ジェーン・エア』原作における先進性はジェーンが

・主人公でありながら美人ではないところ

・男女平等を唱えるところ

・財産や身分にとらわれない自由恋愛を経て結婚するところ

・女性から告白するところ

にあるらしい。

 

ただ、自由恋愛であったり、女性からの告白といった要素は、現代の感覚で見ると「当たり前」で、そこに宿る先進性を感じるためには歴史や文学への知見が必要になる。今の私には、今作の「先進性」を味わうための教養がなかった。その結果、ジェーンの人生が「男に縛られる人生」に見えてしまった。

 

そしてこの作品を味わい尽くすための教養の積み重ねが自分の中になかったことを悔しく思うけれど、それとは別に「古典作品を現代の観客に届ける難しさ」みたいなものも感じた。現代では当たり前になりすぎて見えなくなってしまった、当時の社会における「先進性」であったり「特異性」であったりは、知識のない観客には届かない。そうなると古典作品は「教養のある人」のためのものになっていくのかもしれなくて、でもそれはなんだかさびしくて。かといって事前に「自由恋愛をする先進的な女性を描いています」って告知するのも野暮だしな。

 

私の理想の問題

多分私は、ジェーンは「こんな人になってほしい」という理想を序盤で固めすぎたんだろうな。

孤児院でブチ切れる幼少期ジェーン、Sweet Libertyで「女も男と同様に志を持って役目を果たす」って歌うジェーンの輝きが凄まじすぎて、私にとって理想のジェーンはロチェスターに出会う前のジェーンになってしまったのよ。

 

あとは屋比久ちゃんがジェーンを演じていたことも大きい。私は屋比久ちゃんの力強くて、全てを突き破っていくような歌声が大好きなのよ。大好きすぎてあの声を聞くと、傷ついた男に寄り添う人生じゃない、もっと先へ、もっと大きな舞台で輝けるんだよ、ジェーンは!!!!ってなってしまうんですよ。もうとんでもなく私の個人的な問題ですね。

 

それから純粋にロチェスターがジェーンに相応しいと思えない。(役の話ね。俳優さんたちは素敵でしたからね。) 

心優しくかつ刺激的な人との触れ合いを欲していたジェーンがロチェスターに惹かれるのはわかる。わかるんだけど。あの人、ジェーンにプロポーズしてたと思ったらどんどん話が「俺を助けてくれ」「一緒に苦しみを背負ってくれ」って方向になっていって、しかも結婚式当日に「妻がいます」って。ジェーンのことなんだと思ってるのよ?(ジェーン強火担になりつつある私)もう不信感しかない。そんなこんなで、ジェーンがソーンフィールドに戻るのに対して「なんで!!!」となってしまう。

 

キャスト中心感想

作品としてはそこまで刺さらなかったのだけれど、キャストの皆さんはとても好きだったな〜

 

屋比久ジェーンは歌がつよっつよで、細かいアップダウンが多い難曲が揃う中、圧巻の歌唱だった。そして、屋比久ジェーンは他の人とはどこか違うというか一線を画すというか、ある種「異様」なオーラがある。ロチェスターも変わった人なので、2人で話す場面の絶妙に不思議な空気感がとても良かった。

 

芳雄ロチェスターはめんどくさ拗らせ男度MAXで良い。ジプシーのお婆さんに変装していても一音目で芳雄さんだってわかる歌の上手さ笑笑 屋比久ちゃんも芳雄さんも声量がすごいのでSirensとか歌声をぶつける楽曲の迫力が素晴らしかった👏

あと余談だけど、ゲネの日に上がった記事の「本番前日も髪型定まらず」が面白すぎた。本番でもあんま定まってなかったかもしれん。

 

萌音氏ヘレンはとんでもなくハマってたな。あの表情、あの声で「ゆる〜すの〜」って言われたらさ、しかも死んじゃったらさ、そんなのジェーンは心にヘレンを大切に抱えて生きるに決まってるのよ。

 

それからヤングジェーン&アデールの美怜ちゃんが大活躍。歌も多いし台詞も多いし、ラテン語やフランス語まで喋らなきゃで大役だよ。オフィーリアごっこしてるところと英語 (日本語訳) にフランス語が混ざる台詞回しがとてもかわいかった。

 

春風さん演じるミセス・フェアファックスもとても好きだったな。なんだろうね、あのあたたかさと愛らしさ。大好き。ジェーンがロチェスター家の宝石を贈られたことにも、それを付けようとしないことにも怒るフェアファックスさんのシーンが面白かったな。許されざる身分違いの結婚に対する嫌悪感とジェーンの結婚を祝いたい気持ちの両方を持っていて、ジェーンの気持ちに揺らぎがないことを知るとハグして祝ってくれるのが素敵。今作は女性同士の絆が丁寧に描かれていたところが好きだったな。

 

今作では、ジェーン・ロチェスター・ヘレン以外はアンサンブル的に俳優さんたちが複数の役を担当したり、ジェーンの語りを引き継いだりしていくんだけれど、その中で「私はやっぱり仙名さんの声が好きなんだな〜」と感じた。声の通りの良さ、やわらかさ、温度、とても好き。ロチェスターイングラム嬢がシャンソン歌うシーン、芳雄さんと仙名さんの歌の上手さが150%活用されててにこにこした。

 

終わりに

刺さりはしていないけれど、素敵なプロダクションでした。そもそもね、私自身に恋愛物語を楽しむスペックが備わってないってのもあるんですよね。DLLに至っては、中盤までジルーシャとジャーヴィー坊ちゃんが親子になる話かと思ってましたからね。

 

【屋比久ちゃん関連】