いやーーーーーー楽しいーーーーーーー!!!!!もちろん楽しいだけじゃないむしろフリーダの苦しみを描く作品ではあるんだけれど、パフォーマンスとしてのレベルが鬼の高さだからひたすらに楽しめてしまう。
出演者を見てください
彩吹真央
今井清隆 石川禅
遠山裕介 田村良太 綿引さやか MARIA-E
鎌田誠樹 飯野めぐみ 田中なずな
歌唱力の塊です。誰がメロディを引き継いでもずーっとうまい、ずーっと楽しい。ひたすらにうまい。しかも皆さんの声質や音域がばりばりに活きている。楽曲自体も高音域が多くて聞き応えのある難曲揃いだと思うのだけれど、楽曲と歌声がお互いを活かし合っている最高のパフォーマンス!振付も激しくて見ていてものすごく楽しい。一瞬たりとも集中力が切れなかった。ほんと今作の出演者さんみんなに言えるんだけど、箱のサイズがみなさんの声量に追いついてない笑 壁をぶち破るつもりなのかと思った。
キャスト・キャラクター中心感想
みなさんすごすぎたんですけどキャラクターについてと絡めながら何人かピックアップして感想書きます。
まず、彩吹真央さん。高音どこまで出るんですか!強い!主演だけあって楽曲数もものすごい量なのですが、高音もファルセットではなく地声で力強く引っ張り上げていて大好きになってしまった。そしてとにかく説得力がすごい。強くもあり弱くもあり、ディエゴとの関係においても愛し合っているようでありながらそうでもないような瞬間もあったりする、そんな彼女を彩吹さんはフリーダという1人の人間としての一貫性ある形にまとめ上げている。フリーダは不特定多数の男女と遊んだり浮気したりもするんだけれど、彩吹さんのフリーダは性的な魅力を振り撒いている感じはしなくてそれでもみんな彼女に魅了されていく、その辺の説得力もものすごかったんですよね。
MARIA-Eさんも超絶かっこよかった。どこまで張り上げても力強く歌声が伸びてきて。。
ソウルフルで気持ちが溢れ出すような歌声がフリーダの感情が歌うもう1人のフリーダにぴったりで完璧なキャスティングじゃん😭ってなりました。彩吹さんとMARIA-Eさんの声質や音色の違いもまたいいんだよな。
もう1人のフリーダはフリーダにとって本当の自分であったり彼女の内面世界であったり望んできた姿であったりしていて、そんな彼女がパワフルに歌い上げているとフリーダの魂や生命といった何かより内側にある活気や想いに触れられたような気分になる。そして彼女の眼光が重視鋭いところがとても好き。happyな存在ではないところが。フリーダともう1人のフリーダが手を取り合って《二人のフリーダ》を再現するシーンがとても素敵だった。フリーダが描き続けた自分自身はもう1人のフリーダだと思うけれど、この作品にはフリーダ自身ともう1人の両方が描かれている。
もう1人の存在はシアター的にも大きな役割も担っていると思う。フリーダはパワフルではあるけれど怪我や病の影響でベッドで過ごしていることが多い。だからあまり絶唱しまくってしまうと元気そうに見えて違和感が生まれると思う。そこにもう1人がいることで、フリーダの痛みや苦しみを丁寧に描くことができているんだと思う。
禅さんとキーヨの使い方〜!!!これだよーこれこれ!!ってなってしまった〜!このめちゃくちゃ歌のうまい御二方の歌唱をこれでもかと楽しめる幸せよ。禅さんにいたっては笑う男でソロ曲ありませんでしたからね?禅さんなのに!!
キーヨのディエゴめちゃくちゃよかったな。これまた説得力よ。女たらしだし好きな女は苦しめたくなる。これだけ見たら心底嫌なやつだけれど、カラッとした陽気さと真っ直ぐさがあって彼を慕う人々の気持ちもものすごくわかる。そしてフリーダの愛し方も面白い。ありとあらゆる女性との浮気、フリーダの妹と関係を持つという裏切り、画家としてのフリーダへの嫉妬そういったものとフリーダへの愛が違和感なく同居している。その辺の説得力がものすごくあった。上手前方に座ったディエゴがフリーダを称えて歌い踊る男性陣や特に近くにいた禅さん枠に対し「なんだこいつ、うるさい」みたいな反応してたのも面白かった。ミュージカルの世界観から一歩引く、メタ的って言い方であってるのかな。
禅さんのデュエットが聴ける幸せ〜やっぱりめちゃくちゃ歌がうまい。大好き。
今作は残された人々が死者を語る形式になっていて、その中でもトロツキーは語り部になる場面が多い。ディエゴの語りに対して食い気味で嘲るような笑い声を入れてくるところなんかタイミングから何から何まで完璧すぎて、何もかもパーフェクトすぎる・・・と動揺してしまった。
遠山さんもよかったんだよね!!!縁があって拝見する機会が多く、いつも上手いな~素敵だな~と思ってはいたんだけれど、今作は高音パートがえぐすぎてめちゃくちゃ沸いた。フリーダが画家として成功していく場面、男性陣だけでの歌唱シーンでの高音パート素晴らしすぎて感動してたら上手手前の椅子に座ったディエゴに「今の高音、すごいね↑」的な身振りされてて笑った。やっぱあれすごいよね。とっても素敵だったな。
作品内容・演出などについての感想・考察
「流産」のシーン
フリーダはバスの事故で子宮に大きな傷を負っているものの、どうしてもディエゴの子を産みたくて、医師に止められながらも出産しようとするが、流産してしまう。流産がどのような苦しみを持つのか私にはこれまで全くわからなかったのだけれど(出産にまつわるありとあらゆる願望を持たないので)、このシーンの衝撃によってその痛みが、苦しみが私の中に流れ込んできて、流産の苦しみにほんの少しだけ触れたような気がした。。ベッドでうめき声や叫び声を発するフリーダと彼女を取り囲んでの強く恐ろしく厚いコーラス、照明は真っ赤だけれどフリーダの上体だけは白く照らされている。上体だけが白く照らされていることで下半身からの出血がより一層強調されて恐ろしさを増していた。ものすごいシーンだった。
その他細々した感想
・フリーダが火葬を望む理由:死んでまで横たわっているのが嫌だみたいな台詞もあったけれど、それに加えて肉体が朽ちていく(あふれ出る活力や想像力に反して)辛さを味わってきたフリーダにとっては死んでからも身体が朽ちていくのは嫌だよなと思った。
・飯野さん演じる看護婦がフリーダの元を去ることを決意しながら靴を脱がせるシーン:あれはフリーダに治る見込みはない=歩くこともないから靴はいらないという意味で、とてもいい演出だと思った。かっこよかった。
・資本主義の申し子ロックフェラー家依頼の壁画にレーニン描いて、壁画ぶち壊されるディエゴ・リベラめちゃくちゃかっこいいんだが。私は社会主義を支持しないけれど、圧力に屈することなく我が道を行く人間大好きだよ。
・ディエゴ・リベラに銃撃されるイサムノグチ面白すぎるんだが笑
・ディエゴのフリーダへの裏切りで最も大きかったのは、フリーダの妹に手を出したことなんだけれど、フリーダは妹を先に許したという描写がとてもよかった。しかも妹がディエゴを奪ったんじゃなくてディエゴが妹を奪ったとフリーダは認識してるのよ!フリーダの浮気を手引きする綿引クリスティーナいきいきしていて最高だったし、姉妹愛が素晴らしかった。
扉は1人しか通れない
生前のフリーダは1人になるのを拒むような場面が多い。看護師を引き留める場面やディエゴとの結婚の継続、不特定多数との関係もこれに当てはまるかも。それに対して、トロツキーのキスを「扉は1人しか通れない」と言って断っていたり、彼女のコントロール外とはいえ遺灰もディエゴのものと混ざらずに1人の状態を保っていたりする。生前は1人でいることを拒み、死後は1人であることを望む。これについてはまだ結論がでていないのでそのうち考えついたら書き足す。
最期の作品《人生万歳》
私はフリーダの作品群をまったく把握していないので、他のスイカの作品がいつごろ描かれたのかは知りません。なのでこのミュージカルだけについての考察。作中で登場した作品はどれもフリーダが描かれている(赤ちゃんの絵を除いて)。そこには忘れないでほしい彼女自身が描きこまれている。ただ最期の絵はスイカを描いた静物画となっている。この絵を見たときに、私は彼女の内面的なもの、活力や想像力を感じた。そういう意味ではあのスイカの絵にも彼女自身が描かれていると言えるのかもしれなくて、フリーダの肉体は朽ち果てても抽象化された彼女自身が作品として残るという印象を受けた。
色々と面白い台詞が多かったから拾いつくして分析したいなと思いつつも、歌が強すぎて楽しくなってしまって覚えきれなかった~!また機会があればじっくり考えたいし、ぜひぜひ再演してほしいな!
蛇足
常日頃、小劇場規模の良作ミュージカルがたくさん生まれている韓国ミュージカル界の土壌を羨ましがっている私だけれど、日本でもこんな素晴らしい作品があるんじゃんね。私ももっともっとたくさんの作品を見なくちゃと思ったし、こういった作品が広く、海の外まで届く環境ができるといいですよね。
自慢
今年初の最前だったんだ、うれし。