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ワイホは「神に挑戦して破滅する男」がお好き『ボニー&クライド』3/10 S 初日 感想

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伝説の「カキ、クライドをやらないか」解禁から半年弱、あっという間にボニクラの季節。まじでワイホナイスすぎる!ありがとう!!

Xもいつ滅びるかわからない(&ホリプロのサイトも仕様変更で信頼できない)ので、魚拓取っとく🐟

作曲のフランクとは、数年前『デスノート』という作品を一緒に創った際に「カキ、クライドをやらないか、ピッタリだよ!」と言って頂いたのを鮮明に覚えています。

そして2年前、『ジキル&ハイド』の初日を迎えた直後にも、楽屋に飛び込んでくるやいなや「クライド!!」と言われました。いや、今俺はジキルとハイドなんだけどなあ、、、と思いながらもらしかったのを覚えています。

https://x.com/horipro_stage/status/1840679226736886166?s=46

 

作品・公演概要

Bonnie & Clyde
音楽: Frank Wildhorn(フランク・ワイルドホーン)
詞: Don Black(ドン・ブラック)
脚本: Ivan Menchell(アイヴァン・メンチェル)
初演: 2009年 サンディエゴ
         2010年 サラソータ
         2011年 ブロードウェイ
         2012年 東京
         2022年 ウエストエンド

Bonnie & Clyde (Original Broadway Cast Recording)

Bonnie & Clyde (Original Broadway Cast Recording)

  • フランク・ワイルドホーン & ドン・ブラック
  • サウンドトラック
  • ¥2037

 

ミュージカル『ボニー&クライド』
上演台本・演出: 瀬戸山美咲
訳詞: 高橋知伽江
劇場: シアタークリエ

 

キャスト

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クライド・バロウ: 柿澤勇人
ボニー・パーカー: 桜井玲香
バック: 小西遼生
ブランチ: 有沙瞳
テッド: 吉田広大
エマ/ファーガソン州知事霧矢大夢
シュミット保安官:  鶴見辰吾

牧師/アンサンブル:  石原慎一

+ アンサンブル 7名
+ スウィング 2名

実質2曲もソロ曲がある牧師がプリンシパルとして配役表示されていない謎。この作品においては(主題にも関わる)かなり大きな役だと思うのですが・・・🤔

 

作品感想

こんなにも「神の話」だった

今回の解禁が嬉しすぎてその日のうちに、2022年にウエストエンドで上演されたコンサート版の映像を見ました。初ボニクラ、『俺たちに明日はない』も見たことがなかったので、2人の物語にも初めて触れたわけですが、想像通りの倫理観死滅カップルに爆沸きしました。

そのときは、Frances Mayli McCann(フランシス・メイリ・マッキャン)× Jeremy Jordan(ジェレミー・ジョーダン)の超絶歌唱力と終始ハイテンションなワイホ楽曲をノリノリで楽しんで、特に作品のテーマに考えを巡らせるということはしませんでした。

 

で、今回母語でこの作品を観劇して「こんなにも『神』の話だったのか」と驚きました。派手な銃撃戦や2人の情熱的な生き様がハイライトとはいえ、かなりの時間が「神の話」に費やされていますね。

ブランチの信心深さ、「神の赦し」を求める姿勢は、You're Going Back to Jail(この曲、3者の掛け合いが楽しくて大好き)に表れている通り。そして作品を貫く宗教観の説明として、牧師が歌うGod's Arm are Always Openがあります。

そして私がコンサート版で完全に流していた(そもそもあったか覚えないない)のが、クライドとブランチの口論。「神の赦し」を求めるべきだと諭すブランチにクライドは烈火の如く捲し立てます。

なぜなら、クライド(そしてバック)は「神に見捨てられた人間」で、そんなもの信じられない人生を歩んできたから。小作人の一家に生まれるも、土地を奪われ、失業者キャンプで過ごす子供時代の彼らを保安官たちは「悪」と決めつけてしょっぴき、やっと職を手にしてもやっぱり疑われて奪われる。こうして裏切られ続けられた男の成れの果てがクライドで、彼は最早、神を恨んでさえいる。クライドの強盗は、奪われたもの(一度も手にできなかったもの)を世界から奪い返す「神への復讐」の意味を持っています。

彼自身がどこまでそれを自覚しているかはわからないですけどね。押し入った銀行が破産寸前で「俺たちから土地を奪っておいて、金がないだと?」と怒るところなんかを見るに、もっと個人的な恨み・怒りをベースに行動しているようにも見えるので、あくまで「物語の構造上は」という話かもしれません。

I won't get to heaven
Why not raise a little hell?

No way I'll see heaven
So let's raise a little hell

Raise a Little Hell

The Bible has got it wrong
Just look at the poor
Babe, the meek don't inherit a thing

What was Good Enough for You

聖書はおかしい
貧しき者は幸いならず

満足できる人生

そんな彼らを持ち上げて囃し立てる人々も、貧しい暮らしの中で募る、やり場のない「神への恨み・怒り」をボニーとクライドの行動に重ね合わせることで発散していたのでしょう。それがわかるのが2幕冒頭のMade in America。彼らの強盗に共感する人たちが出てきています。ここに倫理観死滅犯罪者カップルに世間が熱狂した理由が(少なくとも物語の構造上は)あるんだと思います。もちろんセンセーショナルな行動やボニーの美貌への憧れも含まれてはいるでしょうけども。

そんなわけで「神への復讐」たる強盗を繰り返す2人なわけですが、待っているのはもちろん破滅。でも、2人の人生の終わり方が「罰を下される」形ではないのが、他の「神に挑戦する男」を描くワイルドホーン作品とは違うポイントだと思います。

 

ワイルドホーンは「神に挑戦して破滅する男」がお好き?

「神よ 勝利の日を導かん/力 与えたまえ/ヘンリー・ジキル あなたのしもべだ」と歌いながら人の手に余る力を手に入れようとした男や「新世界の神」になろうとした男を思い浮かべながら、こう思ったんですけど、作品年表を見るとそうでもないのかな?笑 結構見たつもりでいたけれど、意外に見ていないワイホ作品が多くて、自信がなくなりました。

少なくともヘンリー・ジキル、クライド・バロウ、夜神月、この3人の「神に挑戦して破滅する男」は、野心や情熱、禁忌を破る度胸、そしてセンセーショナルな死と共通点も多いけれど、彼らの死に際を思い返してみると、やはりクライドの死は異質です。

ボニーとクライドは互いの存在を支えとして、短い人生を味わい尽くしたように見える、ここに「神に見捨てられた」人々への救いが見出せるわけです。もちろんクライドは警官を撃ち殺していて、殺人は容認されるものではないけれど、それでも少なくとも強盗については(物語の構造上は)罰しなくていいはず。

結局、善く生きるためには財布と心に余裕が必要なんですよ。これは今期レミゼを見ながら感じたことでもあります(まだ感想書き溜めちゃってますけど)。 その点、ヘンリーや月は恵まれた出自なので同情の余地無しです。

話は逸れますが「神に挑戦して破滅する男」といったら、私にとっては韓ミュ『フランケンシュタイン』のビクター・フランケンシュタイン!この類型はワイホだけじゃなくて全世界のミュオタが好きなやつです!(主語がデカい?)

そして、今挙げた4役を制覇している柿澤勇人は「神に挑戦して破滅する男」好きな創作者に愛されすぎてますね😂

 

女×女デュエットも気合い入れて

私の中で、ワイホ楽曲は1つの作品の中でも「当たり外れ」が激しいという評価。すごく情熱的で心を鷲掴まれるような曲があれば、やたらのっぺりした印象に残らない曲もあり、あとは「このメロディどっかで聞いたことあるぞ」っていうのもある(『北斗の拳』のケンシロウの曲がLet It Goに似ているのはよく言われてるわね)。

その点、ボニクラは打率高めです。ブルースやロカビリーっぽい曲調が面白いし、ゴスペルは作品のコアなテーマと深く結びついています。

何より、破滅に突き進む疾走感のあるThis World Will Remember Me(とリプライズの Remember Us)、煮えたぎる怒りと苦しみが爆発するRaise a Little Hellがパワフルでかっこいいです。

World Will Remember MeのヴァースはデスミュのWhere is the Justice?のヴァースとおんなじですけどね笑笑笑

ボニーが夢を語るPicture ShowHow 'Bout a Dance?もこじんまりしつつも可愛らしいメロディで素敵。前述の通り、ブランチのYou're Going Back to Jailも楽しい。

気になるところがあるとすれば、ボニーとブランチのデュエットYou Love Who You Loveが猛烈につまらないところ!!貴重な女女デュエットなのでありがたがりそうになるんですけど、2人の女性がそれぞれ好きな男への想い(やや受け身)を歌い上げるバラードは、ジキハイのIn His Eyesの再生産でしかなくて、うーんと思いました。

 

今回の公演の感想

演出はシンプルだけどいい

 初めて瀬戸山さんの演出作品を見たのが、2022年の『ザ・ビューティフル・ゲーム』でした。そのときは舞台の広さを全く活用できておらず、日生劇場のだだっ広い素舞台を見続けることになるという不思議な体験でして、今回の解禁を見たときから「大丈夫だろうか」と身構えておりました。

今回は意外性はあまり無いものの、オーソドックスで見やすい演出で良かったです。2022年のコンサート版とそんなに変わらない感じで、大きなセットはなく、車もボディのないシンプルな作り。

物語は車ごと銃撃された2人から始まり、再びそこに戻ってきて終わるわけだけれど、冒頭は大量の銃撃音と舞台奥からの激しいライトで演出されているのに対して、最後は無音で2人の頭上から白い羽が降ってくるだけ。セット全体も大きな鳥籠のように見えるので、そこの関係は面白いと思いつつも、最後は作品の世界観を踏襲して無骨に、あっけなく、しっかり撃たれた方がまとまりがいいのでは?と思うなどしました。

 

キャスト感想

ジェレミー・ジョーダンを筆頭に、普段聴いている音源のキャストの歌声が化け物級なので、歌唱力は正直物足りない!でも配役はぴったりで楽しく観劇しました♪

柿澤クライド

先ほども書きましたが、柿澤さんはなぜこれほど 「破滅する男」もっと狭くすると「神に挑戦して破滅する男」が似合うんでしょうね。あと舞台上でありとあらゆる犯罪に手を染めがち!野心や怒りで目が見えなくなるお芝居が本当に、なんと言えばいいんでしょう、強い? 特に早口でブランチを捲し立てながら怒りを爆発させる場面の迫力がものすごかったです。見ていてほんとに楽しい!

それからToo Late to Turn Back Nowでボニーを引き止めようとするクライドが信じられないくらいのクズ味で楽しかったです。ブチギレだかと思えば、みっともなくボニーの足に泣いて縋って、別れ話からベッドに持ち込むところまで、とんでも説得力がありました。

今回はBW版やコンサート版と違って子役時代から25歳で死ぬまで自分で演じているわけですけど、柿クライドは終始若く、子供っぽい!それは演じている柿澤さんの実年齢に対してもだし、クライドの年齢に対しても。そんなところにも、周りに手本になるような大人がいなかった、見よう見まねでスーツを着て大人ぶるしかなかったクライドの生い立ちが重なっていました。

歌については、ボニクラ楽曲は絶対に完璧に似合う!と私が期待値を高めすぎたこともあってか、This World Will Remember Meがあっさりめだったので少し拍子抜けしました。でも、小西バックとのWhen I Drive辺りからギアが上がってきて、Raise a Little Hellはとてもエネルギッシュでした。やっぱり、血と怒りと野心が似合いすぎます!

でも欲を言えばもっとドロドロ歌ってほしいかも!今回は1音1音にアクセントがあってクリアな感じでしたが(やっぱり四季の母音法の流れを汲んでいるのかしら?)、曲自体がこってりしたハイカロリーな曲なので、もっと塗りつぶすような歌い方で聴いてみたいとも思いました。

こんな派手な楽曲の中でも1番心に残ったのはバスタブでウクレレを弾きながら歌うBonnie。歌い方も本当に目の前のボニーに聴かせるためだけのもので、ささやかな幸せを感じました。

そしてやっぱり舞台上での身体表現がすごい。華やかで予測不能で、本当に舞台映えする動きをしますよね。ずっと見ていたくなってしまいます。更新されたブログを読んでこの「ずっと見ていたくなる」の根源が少しわかったような気がします。これからもミュージカルたくさん出てほしい!!

 

桜井ボニー

玲香ボニーは度胸があって頑固で、大変かっこかわいかったです。

ボニクラはどう足掻いても「若い女の子がヤバ犯罪男の巻き添えを喰らう話」ではあるので、この2020年代に上演するにあって、ボニーの主体性をどこまで表現できるかに全てがかかってると思うんですよ。そこのバランスが不安だったんですけど、玲香ボニーはちゃんと「選んで」クライドの横に立ち、納得して死んでいったので良かったです。

クライドを殴り返しての「2度と私を殴るな」も大変かっこよかった〜!

ジキハイのときよりはよくなってるけど、歌はもうひとこえ欲しいですかね・・・ミュージカル歌唱としては物足りない感じがします。ここ最近、コントロールできる声域が広くなればそれだけ歌声に表現を乗せる余裕になるんだよなというのを感じております。

 

小西バック

久しぶりに小西さんのお芝居を見て「やっぱり好きだな〜」と。独特の声色で発せられる台詞から立ち居振る舞いまで本当に魅力的です。

しかも、ここにきての「かきこに」!!私はフランケンには間に合っていないDVD勢なんですけど、相性抜群の2人の掛け合い(しかもデュエットまで!)を目撃できて幸せすぎました。

それにしてもかきこにテンションが高すぎて、When I Driveのノリノリ馬鹿騒ぎがものすごいし、その後の「刑務所に戻ろうと思う」を聞いて柿クライドが小西バックを床に向かって信じられない勢いでぶん投げてて笑っちゃいました。これ毎日やってたら体もたないですよ。

コンサート版を見たときは「バックなんでクライドのところ行くの!バカ!」って思ってたんですけど、柿クライドと小西バックの関係値を見せつけられると「うん、そうよね、行ってやるしかないよね・・・」と納得せざるを得ません。柿クライドが吸ってたタバコを流れるように小西バックの口に咥えさせてたよ。

そして、有沙(くらっち)ブランチとの夫婦関係もはちゃめちゃに良い。You're Going Back to Jailで、素っ頓狂な声をあげる情けなくてコミカルな小西バックは魅力が溢れまくりでした。ブランチの尻に敷かれているというわけでもなく、とんでもなく互いを愛していてロマンチックな空気感があるのがとても素敵でした。小西さんは本当に「関係性」を表現するのが上手すぎるんだと思います。くぅ〜!フランケン見たくなってきた!!!

 

有沙ブランチ

キャストを見た時に「くらっちもボニーでいいのでは?」と思っていたのですが、本編を見て納得です、くらっちにブランチを任せたのが大正解。

それは、You're Going Back to Jailでの安定のパフォーマンスからも有無を言わさぬ微笑みの圧からも感じたし、小西バックとの相性の良さからも感じたけれど、何より、 柿クライドの早口マシンガン台詞攻撃をどっしり受けてゆったり打ち返すところに配役の意味を強く感じました。

作品の根幹に関わる信仰についての議論で、あの勢いで噛みついてくる柿澤クライドを前に、ゆったり、どっしり、揺らぐことのない信仰心を示すことができるのが流石だと思いました。

歌でもお芝居でもギュッと作品をまとめてくれるような力を持っていて、これからもたくさんの作品で引く手数多だろうな〜!と思います。本当に素敵で可愛かった。この相性の良すぎるバック&ブランチ夫妻はシングルキャストなので毎回見られるのがとっても美味しい🫶

 

吉田テッド

吉田さんは今回初めて拝見しました。RENTのベニーやロミジュリのティボルトを通ってきた方なのですね!しかも松下優也くんと同じグループ出身!?

歌が上手かったですし、少しじめっとした湿度のある歌声がボニーへの想いに少し影を落とすような雰囲気もあり、作品のスパイスになっていました。他の作品で見るのも楽しみです。

 

 

【柿澤さん関連】