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礼真琴の「夢を見させる笑顔」に溶ける 星組『BIG FISH』6/1 S & 6/9 M 感想

とっても楽しみにしてきた『BIG FISH』見られました😭 とても素敵な作品&公演でした😭😭😭

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作品・公演概要

Big Fish
原作: Big Fish: A Novel of Mythic Proportions (1998 novel) , Big Fish (2003 movie)
音楽・詞: Andrew Lippa(アンドリュー・リッパ)
脚本: John Augustジョン・オーガスト
初演: 2013年 シカゴ(トライアウト)
                      ブロードウェイ
    2017年 ウエストエンド
                       東京

Big Fish (Original Broadway Cast Recording)

Big Fish (Original Broadway Cast Recording)

  • アンドリュー・リッパ
  • サウンドトラック
  • ¥2037

 

星組公演 ミュージカル『BIG FISH』

劇場: 東急シアターオーブ
潤色・演出: 稲葉太地
訳詞: 高橋亜子

 

キャスト

エドワード・ブルーム: 礼真琴
ウィル・ブルーム: 極美慎
サンドラ・ブルーム: 小桜ほのか
サンドラ(若かりし頃): 詩ちづる
ヤング・ウィル: 茉莉那ふみ
ジョセフィーン: 星咲希
カール: 大希颯
エーモス・キャロウェイ: 碧海さりお
ドン・プライス: 蒼舞咲歩
魔女: 都優奈
ジェニー・ヒル白妙なつ
ジェニー(若かりし頃): 鳳花るりな
ザッキー・プライス: 夕陽真輝
ベネット: ひろ香祐
人魚: 希沙薫

 

感想


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映画は小学生か中学生のときに1度見たことがあったけれど「よかった」ということしか覚えていなかったので、1回目の観劇と2回目の観劇の間に久しぶりに見ました。映画もやっぱり素敵でした。涙腺の固い私にしては珍しく泣きました🥹

礼真琴の「夢を見させる力」

そして私は気がついてしまいました。「礼真琴≒ユアン・マクレガーじゃん!ということに。

『BIG FISH』はエドワードが語る数々のファンタジックな物語で構成されていて、演者はその現実離れした世界に観客を引き込むための力を求められます。それを難なくやってのける俳優の筆頭がユアン・マクレガーです。

ユアンは『ビッグ・フィッシュ』でも『ムーラン・ルージュ!』でも、浮世離れした華々しい世界の語り手を演じています。そして彼の笑顔と声には観客に「夢を見させる」魔法のような力があると、私は感じています。ハチャメチャな超展開が起こったとしてもユアンがカメラにぱぁっと笑顔を向けると、観客側は喜んで受け入れざるを入れない、そういう意味では観客の心を思い通りに動かす「強制力」があるとも思います。

そんな「夢を見させる力」が、礼真琴さん(以下こっちゃん)の笑顔もありました。

エドワード・ブルームという人は多くの人を魅了するけれど、常識の通じない自分勝手な人です。結婚式ではウィルとの約束を破ってジョセフィーンの妊娠を公表した上に反省もしない。

現代パートのエドワードはいつも自分の昔話を語り続ける「老害」に近いです。(ただ、映画では年老いたエドワードをアルバート・フィニーが演じていて、その「老害」的な部分が強調されていたのに対し、宝塚版では老けメイクのこっちゃんがそのまま老エドワードを演じることで、どこか憎み切れないチャーミングさが生まれています)

エドワード「俺がいたら緊張してホームラン打てないだろ?」
ウィル「サッカーの試合だよ」
エドワード「...サッカーなんかスポーツじゃないよ」
のところなんかも酷いです。彼は決して自分の非を認めません。そして作品自体もエドワードの考え方や行いを肯定するような形で終わります。

今作の主軸になるのは、自分の人生を夢物語のように語るエドワードとそんな「自分語り」と父の不在に傷ついてきた息子ウィルの対立です。この対立は、これまで語られてこなかった父の功績「アシュトンの救出(映画ではスペクターの救出)」をウィルが知ることでやや和らぎ、そのあとは死に際のエドワードの願いを叶えるためにウィルが壮大な「父の死の物語」を作り上げることで、大団円のハッピーエンドに向かいます。ただ、結末において幼少期のウィルの抱えた不安や悩みにエドワードが、そして脚本が寄り添うことはありません。

こうしたエドワードの欠点、それからストーリー自体のエドワードへの甘さに柔らかく蓋をして、観客の目をくらませ、クライマックスまで突っ走らせる、そんな力がこっちゃんの笑顔とお芝居、そしてトップスターとしての魅せ方にはありました。こっちゃんのパワーと宝塚のスターシステムのフル活用といった具合で、ここに宝塚歌劇団で『BIG FISH』を上演する意味が詰まっていたと思います。

こんな風に書くと、この作品の結末を好きではないように見えてしまうかもしれませんが、私はこの作品が好きですし、クライマックスでは珍しく泣きそうになってしまいました。特に、父の話ほどは大きくないカールと父の話通りの見た目のままの魔女が葬式に現れるところが。

ちなみに、私にとって「夢を見させる」力の持ち主といえば、もう1人、アーロン・トヴェイトがいます。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のオリジナルクリスチャンです。

そして私は観劇中に気がつきました。「礼真琴≒ユアン・マクレガー」「ユアン・マクレガー≒アーロン・トヴェイト」つまり「礼真琴≒アーロン・トヴェイト」・・・こっちゃんはMR!でクリスチャンを演じるべきでは!?!?!?!?

観劇後ずっと、Elephant Love Medleyで頬杖をつく礼クリスチャンを妄想しては暴れています。版権が厳しいことはわかっているから妄想上演で我慢するけれど、せめてYour Songを歌う礼真琴を見たい。何卒。

 

久しぶりに出会った最高のラブデュエットと「良い趣味の悪趣味」

「デュエットならラブデュエットより喧嘩デュエット派!」な私の胸に久しぶりに突き刺さったのが、エドワードとサンドラが歌うTime Stops

このナンバーはカールと共にキャロウェイのサーカスにやって来たエドワードが、ちょうどオーディションを受けていた「アラバマの子羊」のパフォーマンスを目撃し、サンドラに一目惚れする場面で歌われます。

アラバマの子羊」のキュートでアップテンポなダンスと楽曲が、一気にゆっくりになり、ゆったり流れる時間の中でエドワードが1人、サンドラへの想いを歌い出すのがとてもロマンチック。エドワードの視線に気が付いたサンドラのバースがエドワードのメロディから近すぎず遠すぎない変形になっているのも美しいです。

あと私が好きなのが、曲の最終盤で1番盛り上がる「I'd live forever in this moment / If I could stop」のあとに一拍、息を呑むような完全な無音があって本当に時が止まったように感じるところです。

これを書きながら、こんなにもナンバーと演出が強固に結びついたものって案外珍しいかも?と思うなどしました。ミュージカルという表現媒体の面白さを感じる1曲です。

楽曲を手がけたアンドリュー・リッパの作品は、昨年12月に『ジョン&ジェン』で初めて触れました。その時も感じましたが、緻密に音楽で物語を推し進めていきつつ、観客の感情もガッツリ揺さぶりにくるところが好きです。『アダムス・ファミリー』も聴いてみようかな。

 

全編通して好みの曲は多かったのだけれど、そんな中でも特に心に刺さったもう1曲はShowdown

死期が迫り、家のベッドで安静にしているところにウィルがやってきて、アシュトンの家について詰められたエドワード。そのあとで彼が見る夢の中には直前までテレビで見ていたウエスタン映画の人々とカウボーイ姿のウィルが出て来て・・・という場面で歌われるこの楽曲がとても面白かったです。

Showdown

Showdown

  • Bobby Steggert & Norbert Leo Butz
  • サウンドトラック
  • ¥255

口元に笑みをたたえつつ、検事のように病床のエドワードを責めるウィルと「首吊りの刑がある〜」と陽気に歌うコーラス隊に、BWリバイバル演出版『ピピン』で感じたような「趣味の良い悪趣味」を感じて興奮しました。

 

「舞台映え」の意識と失われた円環構造

原作小説は読んでいないのですが、せっかく同時期に映画とミュージカルを見たので、ちょっとした比較を書き残します。

映画

大魚→魔女(幼少期の話)→アシュトン(巨人カール)→スペクター(人魚、裸足の少女ジェニファー・ヒル、詩人)→サーカス(狼男キャロウェイ団長)→サンドラとの結婚→朝鮮戦争?への出征(双子)→銀行強盗(詩人)→大雨と水没(人魚)→スペクターの買戻し(ジェニファー・ヒル)→死(大魚

ミュージカル

人魚・アラバマストンプ→魔女(幼少期の話)→アシュトン(ジェニー・ヒルと巨人カール)→サーカス(狼男キャロウェイ団長)→サンドラとの結婚→大戦?への出征(吹き矢)→ウエスタンの夢(ウィル)→アシュトンの水没と移住の援助(ジェニー・ヒル)→死

基本は映画の流れと近いものの、ところどころ「舞台映え」を意識した改変があるようです(どちらが原作小説を踏襲しているのかわかりません)。特にアシュトン(スペクター)の危機は舞台版では視覚的にわかりやすい形になっていました。

それからアラバマストンプであったり、The Showdownであったり、ミュージカルという表現手法と物語の持つファンタジックな世界観を掛け合わせた場面が追加されていて舞台で上演するミュージカル作品向けアダプテーションとしての「巧さ」を感じました。

ただ今回の上演に関して言えば、舞台上をスイセンで物理的に埋め尽くせないのは少し寂しかったです。階段状になった箱の壁面が開くとスイセンが敷き詰められていて、あとは映像とアーチで表現するというのは少し「苦肉の策」という感じがしました。作品に対する劇場のデカさと予算の厳しさを感じてしまいました。

そして私がいった6/1は、ドンにエドワードが殴られる場面でこの階段部分の壁面が一か所開いてしまい、中のスイセンが見えてしまうというハプニングがありました。ドンの取り巻きボーイズがなんとか修復しようとしていたのですが、無理でそのまま1つひらっきぱなしのまま芝居が続きました笑

 

それから1番気になったのが、タイトルである大魚(ビッグ・フィッシュ)の作中での存在感がミュージカルでは小さいところです。映画では、老エドワードが釣りをしている→若いエドワードが釣りをしている→大魚は泥棒の生まれ変わりという噂があるから結婚指輪を餌に釣り上げる→本当に欲しいものを釣り上げるには指輪を渡すこと(サンドラへのプロポーズを示唆する結婚式スピーチ)といった形で大魚の話題が作品冒頭に出てきます。そして作品最終版、ウィルはエドワードの死を「これまで出会った人たちに見守られる中、大魚になって湖に放たれる」という筋書きで語ります。大魚はエドワードが若かったときから存在するが、その正体は老エドワードの死後の姿であるという矛盾する円環構造になっているわけです。

対してミュージカルでは一応、作品冒頭、Overtureが流れる中で舞台上に大魚が泳ぐ映像が映し出されはするものの映画のように詳しく話が出てくることもなく(映画では老エドワードがバスタブに浸かって「水がないと生きられない」と発言するような伏線もある)、エドワードの死と大魚の結びつきも強調されません。

映画では魔女とジェニファー・ヒルをへレム・ボナム=カーターが1人で演じることで、魔女の円環構造も強調されています。エドワードが幼少期に出会った魔女の幼少期にスペクターで出会い、再び街に戻ってくると彼女は成長していて、後に魔女になると予想できます。

この不思議な時間の矛盾がミュージカルでは弱まっていました。もちろん幼少期に出会った魔女があのときと変わらぬ姿でエドワードのお葬式に現れるという展開は用意されているのですが。「パパの物語の中で、綺麗な人はみんなママなんだ」というミュージカルの台詞には時間の矛盾はないけれど、ファンタジーの現実が混ざり合うエドワードの物語を示す意味では同じ類のお洒落さを感じたりもしました。

 

キャスト感想

こっちゃんの感想は先述しましたので、他の方を。それにしても星組さん本当に歌唱レベルが高くて幸せでございます。

特にすごかったのが娘役さんたちです。小桜ほのかさんと詩ちづるさんのWサンドラが役にぴったりはまっていていて素晴らしかったです。

詩ちづるさんの子羊が可愛すぎて完全に視線を奪われました。1つ1つの動きがどこを切り取っても可憐で、表情や関節の動かし方にミニーちゃんを感じるところに舞空瞳さん(ひっとん)っぽさも感じます。Time Stopsの歌声も素晴らしく、このビジュの強さ、この踊りの可憐さで歌まで良いなんて・・・と恐れおののいております。RRRのシータも素晴らしかったので今後の作品も楽しみです。

小桜ほのかさんのサンドラには涙腺をやられました。アップテンポだったり壮大だったり派手な楽曲が多い作品の中でしっとりしたバラードを担うのは難しいと思うのですが、小桜さんのI Don't Need a Roofは心から聞き入ることができました。彼女のお芝居と歌声は作品全体に深みを与えていたと思います。エドワードとの距離感もすごくよかったんですよね。サンドラはエドワードを否定しないし、彼を心から愛しているけれど、彼を妄信しているように演じてしまうと「変な女」に見えてしまうと思います。小桜さんのサンドラからは、エドワードのホラ話を心から楽しみながらも自分の考えをしっかり持った1人の人間としての人格が感じられてとても好きでした。お芝居も歌も本当に上手すぎます!!

それから今回びっくりしたのが魔女役の都優奈さん。ハイカロリーな難曲を歌い上げていて、何者!?!?となりました。星組の娘役さんたちすごすぎます。男役の皆さんも「誰が歌っても上手い」状態で驚きました。

そして、極美慎のウィルですね〜!安定にビジュが鬼鬼鬼。かっこよすぎます。ソフトで朗らかな感じのお芝居なので初めからそこそこエドワードと上手く行きそうでは?と思いつつ、そんな彼でも譲れないものがあるのは幼少期に傷ついてきた辛さがあるからかな・・・とも思ったり、解釈するのも楽しかったです。

何よりThe Showdownでの口の片端を釣り上げる余裕の笑みに完全にやられてしまいました。あれは反則!!!

 

 

昨年6月の月組『DEATH TAKES A HOLIDAY』といい、宝塚×オーブ×版権はかなり私の心を潤してくれています🫶

 

最近、観劇レポの執筆が遅くなっていて良くないな~と思っています。フルタイムで働き始めて時間がなくなったのもあるけれど、(幸運にも?)言葉をこねくり回すような仕事に就いたもので、仕事後や休日に言葉を紡ぎ出す気力が湧かない・・・。鉄は熱いうちに打ちたいのですが。

 

星組関連】